Emir Kusturica監督作品 『On the Milky Road』
鬼才としか言いようのない、そしてまた尊敬してやまない映画作家エミール・クストリッツァ(Emir Kusturica)による、実に9年ぶりとなる長編劇映画。初公開は2016年。ヴェネツィア映画祭に出品され、好評を博したようだが金獅子賞は逃している。出演は監督自身と、国際女優モニカ・ベルッチ(Monica Bellucci)、その他もろもろ、である。
舞台は1990年代初頭くらいとおぼしき、戦争状態にあるユーゴスラビアあたりの山の中。ミルク運びを生業とする主人公のコスタ(クストリッツァ)は、勤め先の家に連れてこられた花嫁(ベルッチ)に一目ぼれ。花嫁の方もまんざらではない様子。実はこの花嫁、多国籍軍の英国人将校の元愛人であり、さらに言えば追われる身であった。その後、戦争状態はいったん収まるのだが、そんな中で英国人将校が派遣した暗殺部隊による追跡作戦が開始されていた。果たして二人の運命はいかに、というお話。
先行作品(要するに元ネタ)としてすぐに想起できる『ドン・キホーテ』はもとより、一連の「心中」ものであるとか、ギリシャ神話の何かのエピソードの他に、何となく今村昌平の『楢山節考』を思い起こしてしまったのは、随所に現れてくる動物たち(ハヤブサ・ロバ・蛇・ガチョウ・羊などなど)によるものだろう。動物を使わせたら映画史上最強かも知れないこの監督、まさに面目躍如といった感じ。
さて、全体的には「時代劇」のようなお話で、にもかかわらず現代を舞台にしたことについてはちょっと「無理」を感じたのだけれど、どう考えても、現代においてこんなことは絶対に起こらない、はずである。
そういう、お話自体の構成についてはやや疑問を感じたのだが、既におなじみになっている監督の身内みたいな人たちによる何とも騒々しい音楽であるとか、上述の動物たちであるとか、相変わらずキャラクタの濃すぎる人物造形であるとか、いかにもこの監督、というあたりは十分に堪能できた次第である。(2017/09/20)