Danny Boyle監督作品 Millions 2006.06(2004)
英国人ダニー・ボイル(Danny Boyle)が贈るどこまでも英国的な映画。いよいよポンドが廃止されユーロが導入することになったという「架空の英国」を舞台に、現金強奪団が落とした約22万ポンドを、ひょんなことからダミアンという名の少年が手に入れたことから始まる基本的にはハート・ウォーミングなコメディとして観ることが出来る作品となっている。
なかなかに見所の多い作品で、例えば Trainspotting (1996)などにも端的に現われていた全編にみなぎる疾走感というかスピード感はこの映画でも健在だし、サウンド・トラックもとても良いし、ダミアンがキリスト教史上の「聖人たち」を見ること、そして対話することが出来る、という設定が大変良い味を出している。後者について付け加えると、この映画には通貨転換がすぐ目の前に迫ったクリスマス当日になされて、その時点で22万ポンドが紙くずになる、という舞台背景があるのだけれど、こうしたことから明らかな通りこの映画、かなり「宗教臭い」作品にもなっている。まあ、良くあるクリスマス映画、と言ってしまえばそれまでなのだが。
「宗教臭さ」について敷衍すれば、大学院の社会学研究科を出ている私はこの作品について、「プロテスタンティズムの倫理」と「資本主義の精神」について洞察した映画、というややうがった見方をしてしまったのだが、これはあながちハズレではないだろう。大金を前に右往左往する年長者達を尻目に、独自の倫理観を貫こうとするダミアンの姿にはなんともけなげでいじらしいものがある。
惜しむらくは、全体として詰め込みすぎな感が強いことだろうか。母であり妻である女性の死を乗越えようとする家族の奮闘、大金を発見したことで巻き起こる騒動、大金を巡っての強奪団メンバとの駆け引きと闘い、といったことが1時間半足らずの中で描かれるのだが、重点の置き方がもう一つ練り込まれていないのも事実で、家族の恢復がテーマなのか、あるいはお金の「正しい」使い道について考えるさせたいのかがどうもハッキリしない。要するに、お金を巡る話と家族関係の恢復の話がどうも繋がっておらず、それならばどちらかに絞るか、あるいは両者をもっとうまく接合させることが図られるべきだったのではないかと考えた。以上。(2006/09/14)