Wong Kar Wai監督作品 『マイ・ブルーベリー・ナイツ』
今年で丁度50歳になる上海生まれの映画作家ウォン・カーウァイ(Wong Kar Wai:王家衛)が、アメリカで作ったロード・ムーヴィである。台詞は全て英語で、昨年春の第60回カンヌ国際映画祭ではオープニング作品となっていた。恋に破れた主人公の女性が、ウェイトレスの仕事で食いつなぎつつアメリカ国内を転々とする間に体験する二つの出来事を中心とする、やや切ないところもあるけれども基本的にはハート・ウォーミングなラヴ・コメディ、といった風合いの作品に仕上がっている。
この映画、なんと言ってもキャストが素晴らしい。主演のグラミー賞常連歌手であるノラ・ジョーンズ(Norah Jones)を筆頭に、男に振られた彼女がふらりと訪れるカフェのオーナ役にジュード・ロウ(Jude Law)、最初の滞在地メンフィスのバーでの出来事に登場する離婚カップルにレイチェル・ワイズ(Rachel Weisz)とデイヴィッド・ストラザーン(David Strathairn)、そして極めつけはネバダ編に登場するギャンブラ役のナタリー・ポートマン(Natalie Portman)。よくぞ集めた、という感じで、王監督としてもその撮影その他の作業はとても楽しかったのではないだろうかと思ったりする。
やや脱線すると、こうした錚々たる俳優人の中であくまでも普通のウェイトレス、といった役回りを見事に演じている映画初主演のノラ・ジョーンズだけれど、Wikipediaを見るとこの人は本当にウェイトレスをしていたことがあるらしい。周知の通りこのまだまだ若いジャズ・シンガは「凄い父」を持っているのだけれど、世の中そういうものなのだ。
話を戻すと、毎度何かしらのイノヴェイティヴなことをその作品で表現して来た王監督の映画としては果たしてどうなのだろう、ということを考えなければならない。個人的には、常に先鋭的であることを目指し、それを多くの作品において実現してきたこの監督にしては全体としてやや切れ味が悪い、と思ったのだが、ストップ・モーションの多用を含む独特な映像表現にはやはりこの監督らしさを感じた次第。付け加えるなら、ライ・クーダー(Ry Cooder)が音楽担当で、ロード・ムーヴィで、となるとやはり外国人(ドイツ人)でアメリカに渡って映画を撮ってきたヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)のことが思い浮かんでしまうのだけれど、この映画には、王監督っぽさと同時にまた、かなり意図的に入れていると覚しきヴェンダースっぽさをあちこちに見て取ることの出来たのだった。以上。(2008/04/17)