Peter Greenaway監督作品 『レンブラントの夜警』
現在はオランダに住んでいるらしい英国映画界きっての鬼才ピーター・グリーナウェイ(Peter Greenaway)による最新の劇場版長編劇映画である。17世紀に活躍したオランダの画家レンブラント・ファン・レイン(Rembrandt Harmensz. van Rijn)が描いた数多くの絵画の中でも最も有名な作品である『夜警』(オリジナル・タイトルは『フランス・バニング・コック隊長の市警団』)を題材に、そこに描かれた人物達を登場させながら絵に込められた深い意味を独自の解釈で切り出していく。
さて、この絵はそれこそ上記市警団の依頼を受けて描かれたものなのだけれど、当時の肖像画の描き方としては非常識とも言える、全員が平等な扱いで描かれていないこと、つまりは斜めを向いていたり顔に腕がかかっていたりといったことについて、当の市警団からは相当な不評を買ったという話もある。しかしながら、むしろそのような技法をとったことがこの絵を躍動感あるいは臨場感溢れるものにしているという点で極めて高い評価を得た、などということも言われているそうである。この点についてはこちらに詳しく描かれているのでお読みいただきたい。『夜警』そのものの画像も掲載されている。
映画の中で展開される解釈はそうした議論から更に踏み込んだもので、それは要するに汚職や殺人その他の犯罪行為に対する告発をレンブラントは勇気を持って絵画の中で行なったのだ、ということになる。なお、そうした行為によってボロボロになっていくレンブラントを演じるマーティン・フリーマン(Martin Freeman)の演技はそれはそれは凄まじいものである。
確かにやや妄想めいているというかかなりの飛躍もあるようにも思うのだが、それこそがこの監督の真骨頂とも言えるのではないかと思うのだ。自由に想像の羽根を広げながら、例えばあの傑作『コックと泥棒、その妻と愛人』(1989。原題はThe Cook the Thief His Wife & Her Lover )などがそうであったように、この作品もまた人間や社会の暗部とでもいったものをグリーナウェイ的な表現・切り口により見事な形で描き出している。全盛期に作られたあの映画や2年後に作られた『プロスペローの本』(1991。Prospero's Books )以降どうもパッとしないこの監督が久々に本領発揮というような感じで撮った、会心作の一歩手前くらいの作品なのではないかと考えた次第。以上。(2008/03/08)