Ethan & Joel Coen監督作品 『ノー・カントリー』
イーサン&ジョエル・コーエン兄弟による劇場版長編最新作である。この作品、かなり高い評価を受けていて、例えば第80回アカデミー賞では作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞の4部門に輝いている。この兄弟による映画がここまで高い評価を受けたのはあの傑作『ファーゴ』(1996)以来のことになるんじゃないかと思うのだが、実はこの二つの映画はとても似ていたりもするのだ。
アメリカのメキシコ国境に近いあたりが舞台で、ドラッグの取引に絡む曰く付きな大金を手に入れた男モス(Josh Brolinが演じている。)が、メキシコ系の密売組織及び謎の殺人鬼アントン・シガー(綴りはAnton Chigurh。助演男優賞のJavier Bardemがとても良い味を出している。)から逃れようと繰り広げる逃走劇と、これに並行して進む一連の事件を担当し収束させようとする保安官エド(Tommy Lee Jones)による捜査過程が描かれる。
邦題の「ノー・カントリー」では何のことだかさっぱり意味が分からないのだが、原題はNo Country for Old Menになっていて、これは要するに、「年寄りには居場所がない」、といったようなことを意味する。年代的には1980年頃の話なのだけれど、エドなどの高齢な人々による、猟奇的ないしは理解不能な犯罪が蔓延するご時世についての慨嘆あるいは諦念といったものを表現していることになる。なかなか見事なコピーだと思う。折角のコピーを台無しにしてしまっている邦題には少々ではない苦言をここに呈しておきたい。
さて、以下映画の中身について感じたところをごく簡単に書いておくと、最初の方にも書いた通りこの映画、『ファーゴ』に展開が良く似ていて、「何を今更…」という感慨を抱くと同時に、さりとてあの作品から10年を経て人間洞察がより深められていれば良いのかな、とも思ったのだが決してそうではなくむしろ後退しているのではないかといった辺りが残念なのであった。そういうことを感じられた方は結構多かったのではないだろうか。
また、確かに良くまとまっているのだけれど何だか物足りない、というのが正直なところであり、例えば、モス・シガー・エドという追跡トライアングルの構成人物3名(もう一人Woody Harrelsonが演じるウェルズという人物もいるのだが、余りにも存在感が薄すぎて、「この人って別にいなくても良いんじゃないか?」と思った次第。)をもう少し良いバランスで、そしてまた個々のキャラクタを各々もう一歩ずつ深く踏み込んで造形していたら、傑作と呼べるものになっていたのではないか、とも考えたのである。以上。(2008/04/19)