Paul Thomas Anderson監督作品 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』
天才肌の映画監督ポール・トーマス・アンダーソン(Paul Thomas Anderson)による最新長編映画である。ご存じの通り主演のダニエル・デイ=ルイス(Daniel Day-Lewis)が先頃アカデミー賞で見事主演男優賞に輝いた他、ロバート・エルスウィット(Robert Elswit)が撮影賞、といったように2部門を制覇。ノミネートだけなら作品賞や監督賞も含め8部門に及ぶというように極めて高い評価を受けた作品である。個人的には、Radioheadのベーシストであるコリン・グリーンウッド(Colin Greenwood)の弟だったりするジョニー・グリーンウッド(Jonny Greenwood)が手がけたサウンドトラックが素晴らしいと思ったのだが、これについては今年2月のベルリン国際映画祭で監督賞を貰ったアンダーソン監督と同じく銀熊賞を受賞している。
さてさて、肝心の中身であるが、アプトン・シンクレア(Upton Sinclair)のOil!という小説に基づいたその物語自体は単純で、要するにデイ=ルイス演ずる独立系の石油採掘者=ダニエル・プレインヴュウ(デイ=ルイスとゴッチャになるかも知れないのだが以下「ダニエル」と表記。)がのし上がり、方々から叩かれ、それでも堪え忍んで何とか成功を収め、或はまた色々ないざこざに巻き込まれ、人の道を踏み外し、その行く手には、といった様を描いたもの。
ありがちな話ではあるし、この監督にしては余りにもオーソドックスな展開と造りに驚いてしまうのだが、20世紀初頭という時期のアメリカを隅々まで注意を払いそれはそれは丁寧に再現しつつ、何度も取り上げられてきた「金のために魂を売る男」というモティーフを彼なりにとことんまで煮詰めかつ掘り下げ、人間の中にどうしようもなく存在する冷酷非情さあるいは残忍さ、はたまた自分本位さあるいは身勝手さ、と言った闇の部分をデイ=ルイスが持つ圧倒的な演技力の助けも借りながら容赦ない形で表現した極めて完成度の高い作品に仕上がっている。取り敢えず、ここ数年観たものの中では圧倒的にベストな作品、と言っておきたい。
ちなみに、主演のデイ=ルイスが途方もなく素晴らしいのでやや目立たなくなってしまっているのだが、脇役達も実に見事な演技を見せているという点を特に強調しておきたい。取り分け、ダニエルの息子にして共同経営者的な役柄の天才子役ディロン・フリーシャー(Dillon Freasier)、ダニエルが買収した土地に住む「第三の啓示教会」という名の、設定としては当時勃興していたペンテコステ運動に属するのではないかと思うキリスト教系教団の説教師である青年役のポール・ダノ(Paul Dano)の二人の名は特筆されるべきだろう。今後の活躍が期待されるところである。以上。(2008/05/28)