木村直樹著『御鍬祭考 ―民衆の伊勢信仰―』樹林舎、2007.12

2月の頭頃に私の住んでいる鈴鹿市内の各神社では「御鍬(みくわ)祭」という行事が行なわれていて、これが一体どういう由来を持つものなのかとても気になったのでネット上で検索をかけて発見した書物である。折しも昨年12月に刊行されたできたてほやほやの論考なのであった。
とは言え、中身は近所で行なわれている御鍬(みくわ)祭を扱ったものではない。本書で扱われる「御鍬(おくわ)祭」とは、伊勢の御師(おんし:27頁で「おし」とルビが振られているがこれは誤り。)が、神宮の鍬山神事を模す形で世の中、特に東海地方を中心とする地域に広めたものである。本書では、これが基本的に60年毎に流行したこと、その派手さから時の権力側からは警戒されていたこと、現存する伊雑宮との関係が深いこと、「ええじゃないか」と関係が深いらしい住吉踊や伊勢踊とも関係する、といったことなどが、数多くの文献資料を渉猟しつつ記述されている。
前置きやまとめのようなものが存在しないため、著者がどういう視座に立っていて、何を言おうとしているのかが明確になっておらず、また地図や分かり易い年表(分かり難い年表は巻末に付されているのだが。)が所載されておらず、各節が連続性や統一性をほとんど持たない形で並べられているため流れが頭に入ってこない、という難点はある。正直なところ、恐らくは誰の目にもとまることなく終わりそうな書物なのだけれども、資料の出所などはきちんと書かれているので、御鍬(おくわ)祭についての概略を掴み、これから深く考えようとする上では一応役に立つのではないかと思う、と述べておきたい。
蛇足ながら、個人的には、本書からは全くヒントを得ることが出来なかった、御鍬(おくわ)祭と近所で行なわれている御鍬(みくわ)祭との関係について、ここは一つ掘り下げて調べてみようかなどという思いを抱いたのである。字は同じだけれど別物なのか、あるいは定着し年中行事化したものなのか、という辺りをまずは押さえてみたいと思う。以上。(2008/03/30)