John Carney監督作品 『ONCE ダブリンの街角で』
全米ではかなりのヒットとなったらしいアイルランド映画である。原題はOnce。一応ミュージカルというジャンルに入るんじゃないかと思うんだけれど、それなりに著名なThe Framesというバンドの元ベーシストであるジョン・カーニー(John Carney)が脚本と監督を手がけ、さりげなくアラン・パーカー(Alan Parker)の映画『ザ・コミットメンツ』(The Commitments)に出演していた同じバンドのヴォーカル兼ギタリストのグレン・ハンサード(Glen Hansard)が主役を務めるという、あの辺=英国・アイルランド辺りの音楽好きには取り敢えず堪らない作品なのである。
それはそうなのだけれど、それだけだと単にマニアックな映画に過ぎないことになる。世界中で広く受け入れられたからには当然それだけではないわけで、物語の造りであるとか、人物造形であるとか、風景描写などなどといったところにも大変見所の多い、ある意味極めて普遍性の高い作品に仕上がっている。
さてさて、その中身について言及しよう。話自体は単純なのだけれどなかなかひねりも効いている。基本的なプロットとしては、ダブリンに住む掃除機修理業手伝いをしつつ日夜路上ライヴを行なっている青年(役名は単にGuyだったけれど。)が、偶然それに聴き入っていた実は歌やピアノが出来るチェコ移民の花売りをしている女性(こっちは単にGirl。)の応援を受けて音楽で身を立てるべく一念発起する過程と、当然の如く起こる二人の間の微妙な心の動きを描いたものなのだが、細部の造りがとても良いのである。適度にハート・ウォーミングで、適度にほろ苦くて、適度に「明日への力」みたいなものを貰える、というバランス感覚も実に見事なものだ。たったの$160,000でこれだけのものを作り得たプロデューサをはじめとするスタッフ陣の手腕はかなりのもの、と言えるだろう。
ところで、恐らくは、「この主役、歌うますぎだよなぁ。これじゃとっくの昔にスカウトの目に留まってるよなぁ。そんでもってデビュウしてるよなぁ。」なんて突っ込みを入れたくなる人もいるはずなくらいサウンド・トラックが素晴らしいのだけれど(だってプロだし…)、まあ、わざと下手に作るわけにもいかないし、その辺は想像で補うべきだろう、と思うのだ。一般法則が成り立たない世界を舞台やスクリーン内に構築するミュージカルの常として、そういう観方こそが正しいのである。ちなみに、それもそうなのだが、あの国のストリート・ミュージシャンのレヴェルはかなり高い、ということも付け加えておこう。ここまで凄い人は滅多にいないと思うのだけれど。以上。(2007/12/03)