岡野玲子作『陰陽師 1-13』白泉社、1999.07-2005.10(一部は1994-1999に初出)
夢枕獏原作、岡野玲子作画による余りにも著名なコミック作品。長年にわたる連載、複雑な連載雑誌変更と単行本発行所変更等々に伴い、正確な書誌情報がつかめていない。取り敢えず現在は白泉社から全ての単行本全13巻が出ていること、2005年9月末に堂々の完結を迎えたことを述べておけば良いかと思う。
さて、夢枕獏による原作やその映画版については本サイトでもちょろちょろと紹介してきたので、探してみて欲しいのだが、今回の岡野版紹介にあたっては、その特徴として3点を挙げておきたいと思う。
その1.圧倒的な画力によって平安絵巻的世界を今日に再現しつつ、これにより漫画表現に新しいスタンダードを与えてしまったこと。特に、背景や登場人物の衣装の描き分けは空前絶後なものがある。途方もない時間がかかっているんだろうと思う。ちなみに、人物の顔についてはやや難があって、ところどころ誰が誰だか良く分からなくなるところもある。その2.夢枕獏版に先行する形で話が進んでいってしまうのだが、実のところその原作を遥かに凌(しの)ぐ情報量を誇り、更には夢枕版よりも陰陽道や平安中期という時代についての考証などが正確であること。英単語や現代語も頻出するが、これはご愛嬌。その3.主人公・安倍晴明やその無二の親友・源博雅の人物造形が、どちらかというと軽妙で洒脱な感じのある夢枕版に比べると、やや重々しい、ということ。こんなところだろうか。尚、この二人を巡っては、当然の事ながら大量の「やおい本」(死語?)や「やおい系サイト」の類が存在するのだが、それはまあ措いておこう。そういうのも面白いんだが…。
さてさて、話を戻すと、やはり特筆すべきは夢枕版でもやがて描かれることになるのだろう第7巻辺り以降の物語展開で、これはまさに目を瞠(みは)るばかりのもの。この時期に掲載誌や編集者が変わったのではないか、と思われる節もあるのだが、物語展開もさることながら、この辺りからの各種宮中行事等々といった諸儀礼の恐ろしく手の込んだ描写は誠に圧巻。基本的には天文学であり自然科学であり、更にはまた認識論であり都市計画学でさえある陰陽道というものの本質を、見事な形で視覚化し得たた岡野氏の力量には惜しみない賞賛が与えられてしかるべきものと思う。以上。(2006/02/03 節分)