Guillermo del Toro監督作品 『パシフィック・リム』
メキシコ出身の映画作家ギレルモ・デル・トロ(Guillermo del Toro)による、かの傑作『ヘルボーイ:ゴールデンアーミー』以来実に5年ぶりの監督作、となる超話題作にして制作費約1.9億ドルの超大作。その間、『ロード・オブ・ザ・リング』の前日譚『ホビット』の監督を任されたものの何かの事情で残念ながら降板、といった事態もあったわけだけれど、その辺りはさすがに売れっ子、である。
タイトルの"pacific rim"とは要するに「環太平洋地域」のこと。海溝の奥深くからある日突然出現するようになった「怪獣」(映画の中でも日本語のまま"kaiju"、と呼ばれている。)を駆逐すべく作り出された二人乗りの巨大戦闘ロボット=イェーガーだったが、日に日に力を増していく怪獣たちの前に、次々と倒されていた。迫りくる人類最後の日。
そんな中、かつての戦闘で兄を目の前で失って以来戦列を離れていたローリー・ベケット(チャーリー・ハナム=Charlie Hunnam)は、香港での最終防衛作戦のためにスタッカー・ペントコスト司令(イドリス・エルバ=Idris Elba)によって再招集され、森マコ(菊地凛子)らとともに怪獣との戦いに身を投じていく。怪獣の正体とは、あるいは人類の運命は、というお話。
さて、そんなかなり既視感のあるストーリーを持つこの映画、この監督が独自の路線でやってきたこれまでの作品群に比べれば、確かに作家性は希薄、ととられるのかも知れない。そこには「失敗できない」ハリウッド映画の事情が存在することも確かだろう。
しかし例えば、科学的な考証なんてものは度外視し、伏線を張りまくった複雑なプロットや過剰に込み入った人間関係を持ち込まず、ひたすらにバトル・シーンの迫力に拘った作品だと思うのだが、その潔さには昨今のハリウッド映画とは逆のベクトルが感じられないだろうか。
更に言えば、動きが速すぎて分かりにくい怪獣の造形はネット上に転がっている静止画で見れば紛れもなくデル・トロならではのものだし、そしてまた怪獣の秘密を暴こうとする二人のエキセントリックな科学者と一人の闇商人の存在なんていうのは、これはもう、なのである。
以上をまとめて、一歩間違えれば誰にも見向きされない危険性を孕みつつ、綱渡り的なバランスで作り上げられた、巨大なハリウッド資本とデル・トロという特異な才能が見事な融合を果たした快作、と述べておきたい。以上。(2013/09/05)