中島哲也監督作品 『パコと魔法の絵本』
『下妻物語』、『嫌われ松子の一生』で知られる中島哲也(なかしま・てつや)監督が、後藤ひろひと作の舞台劇『MIDSUMMER CAROL ガマ王子vsザリガニ魔人』を映画化した作品。とあるアジール的な病院で、事故の後遺症で記憶が1日しか保たない少女パコ(アヤカ・ウィルソン)に、彼女が毎日読み続ける絵本『ガマ王子vsザリガニ魔人』を夏の病院イヴェントにおいて舞台劇として上演して喜ばせてやろうとする入院患者達の奮闘を描く。
恐ろしく巷の評判が良い作品で、興行成績も上々の模様なのだが、確かにこれは素晴らしい。物語の中心となるのは頑固で怒りっぽい嫌われ者の入院患者・大貫(役所広司)とパコとの交流なのだけれど、ちょっとこれが「痛いところ」を突いてくるというか、正直なところウルウルもの。全体を通してアジール的で祝祭的な雰囲気がみなぎっていて、何となくフェデリコ・フェリーニを感じさせるところがあると思ったのだけれど、大貫とパコの話というのも実はフェリーニの代表作中の代表作から来ているのかも知れないなどと考えたりもした。
日本が誇るCGアニメーション技術を駆使した極彩色な感じの画面構成(公式サイトをご覧になると大体の所はお分かり頂けると思う。)、妻夫木聡、土屋アンナ、阿部サダヲ、上川隆也、加瀬亮といった面々に加え、今回こんなに凄い女優だったのかと再発見させられた小池栄子等の怪演振り、そしてまた良く練り込まれたプロット・脚本等々、実に見事なものなのであり、これはまたまた各賞ノミネートあるいは受賞の可能性が高いのではないか、と思う次第である。
以下無い物ねだりみたいなことを書いておくと、確かに、明らかに意識していると思われる群像劇の大家ロバート・アルトマンだったら各人のエピソードはもっと念入りに、そしてまたそれらの絡み合いもより有機的に描くだろうし、もう一人意識しているはずのティム・バートンだったら美術や画面構成、あるいは衣装やメイクにより一層の完成度を求めるだろうし、といった具合に、実はこの映画、もっと上を目指せたかも知れない、とは思うのだ。もう一つ言えば、どうにもドタバタ喜劇っぽいところが多すぎて、それが肝心の感動的なメイン・プロットの邪魔をしてしまっているように感じる鑑賞者も多いはずで、その辺りのバランスには配慮が欲しかったとは思う。要は、群像劇という方向で行くのか、あるいは話の中心を大貫とパコの物語に集約させるかのどちらかにすべきではなかったか(個人的には後者の方が良いと思う。)、ということである。どうも、どっちつかずな印象は否めなかった。
そうではあるのだが、この作品には、そういう弱点ないしはやや詰めが甘いと思われる部分が殆ど気にならなくなるほどに思わず「ほう」とうならせられる良い点が山のようにあるのも事実なのである。この映画、実に見どころ、笑いどころ、泣きどころ満載の大変な傑作であることは間違いなく、実のところ私が日本映画からこれほど強いインパクトを受けたのはそれこそ周防正行による12年前の作品『Shall we ダンス?』以来であることを述べておきたい。以上。(2008/09/24)