Hany Abu-Assad監督作品 Paradise Now
パレスティナ人であるハニ・アブ−アサド監督が、イスラエル人やヨーロッパ各国人の協力を得て制作した作品。ゴールデン・グローブ賞など数々の賞を受賞したということからも分かる通り、先進諸国でも高い評価を受けた作品である。これは、この映画が持つ政治的メッセージ性と考え合わせると、大変興味深い事実でもある。
話としてはイスラエルによって占領されている土地であるナブルスを舞台に、パレスティナの民の自立を賭して自爆攻撃(より一般的には自爆テロ)を敢行しようとする二人の若者が過ごす最後の二日間を描く。自民族のためなら死など恐れない、というような、どうもそういう形にステレオ・タイプ化されてしまいがちなある意味「狂信的」な若者ではなく、そもそも自爆攻撃に意味や効果があるのかどうか、あるいは死んでまでするべきことなのかどうかについて大いに疑問を感じている日本をはじめとする先進国的な基準からみて全く普通の若者、という設定に込められたメッセージはなかなかに強烈なものだ。
個人的には、ラスト近くの、イスラエル国内(テルアビブ)に舞台が切り替わったところが印象深かった。海岸のあたかもリゾート地であるかのような場所なのだが(つまらないことだが、海浜幕張駅周辺に似ていたりする。)、そのピカピカな光景の描写は、どうみてもインフラストラクチャが十全でない占領地との著しい差異を強調することを意図しているのだと思う。
いずれにせよ、何とも難しい、解決までにこれから何世紀かかるのか、あるいは永久に無理なのではないかとさえ考えてしまうパレスティナ問題について考えるには恰好の素材となる作品である、とここでは述べておきたい。以上。(2007/05/08)