Wim Wenders監督作品 『Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』
2009年にこの世を去った20世紀最大の舞踊家にして振り付け師の一人であるピナ・バウシュ(Pina Bausch)について、彼女がその死までの35年ほどの期間芸術監督を務めてきたヴパータル(Wuppertal)舞踊団のメンバ達が語り、踊るという構成をとるドキュメンタリ。監督は、これまた20世紀最高の映画監督の一人にして、彼女と同じ国籍のヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)。
この作品の成立経緯はかなり複雑。20年来ピナについてのドキュメンタリ・フィルムを作るというアイディアを温めていたヴェンダースは、2007年になって3Dで撮ることを思い立ったらしい。そして、2009年初頭についに3Dでの撮影を始めようという矢先、ピナは癌のため急死。
主役を失ってしまったことにより、ヴェンダースは映画制作を断念。しかし、舞踊団メンバ達の強い要望により、この企画は形を変えて蘇ることになる。つまり、上記のように、ピナの遺したものを語ること、踊ることで見せる、あるいは伝える、というように。
死してもなおという点では、ポップ・ダンスの帝王マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)と同様、なのだけれど、死を前にしたマイケル本人の歌い踊る映像が流通し消費し尽されたのとは異なり、この作品にはピナ自身の舞踊場面は殆ど登場しない。そんなところに明瞭に現われているように、ヴェンダースと舞踊団によって作られたこの作品の根底にあるのは、踊り継ぐ、ということへの強固な意志、である。
鍛え込まれ、更にはその人生全てをダンスに捧げている、としか言いようのないダンサー達の見事な舞踊振りもさることながら、そこに込められた上のような意志を、極めて緻密なカメラ・ワークと編集技法などによって再構成する、こちらもその人生の全てを映画に捧げてきたヴェンダースの映像作家としての秀逸さには、脱帽する他はない。
3Dというようやく完成に近づいている技術をもってして、アーティスティックな、そしてまた商業ベースに多少は乗るような恐らくは最初の作品として、このドキュメンタリ・フィルムは長く語り継がれることになるのではないだろうか。以上。(2012/03/25)