ジュリアン・シュナーベル監督作品 『潜水服は蝶の夢を見る』 2008.07(2007)
天才映画監督ジュリアン・シュナーベル(Julian Schnabel)による、2007年公開の長編映画である。原題はLe scaphandre et le papillon。単純に『潜水服と蝶』である。ゴールデン・グローブ賞では監督賞と外国語映画賞、カンヌ映画祭では監督賞と特殊技術賞、アカデミー賞では4部門ノミネート、というようにかなり高い評価を受けた作品だが、その実素晴らしい。
描かれるのは実際にあった出来事。ELLE誌の編集長ジャン=ドミニク・ボビィ(Jean-Dominique Bauby。マチュウ・アマルリク=Mathieu Amalricが演じる。)が病室で目覚めるところから映画は始まる。ボビィは、病室にやってくる人たちの言葉は理解出来る、でも、体が動かせない、そしてまた声が出ないことに気づく。脳障害により全身麻痺に陥っているのだった。そんな<潜水服を着せられたような>不自由極まりない状況から、やがて彼は美しい言語療法士の粘り強い指導により唯一動かせる左目の「瞬き」によるコミュニケーションを確立し、瞬きのみによってその記憶と<蝶のように羽ばたく>想像力により自伝を綴り始める、というお話。
映像、音楽、演出、キャスティング、編集、美術などなど、あらゆる点において見事という他はないほぼ完璧な映画なのだが、そもそも原作となっている自伝の存在そのものが人間というものの持つ無限の可能性を体現しているように思われ、一度手に取りたいと考えた次第。原著は1997年に刊行されているが、邦訳は講談社から1998年に出ている。分量も適当だし、多分フランス語の勉強にはうってつけなはずなのでここは敢えて原著で読むのも良いかも知れない。蛇足ながら、この映画もフランス語の勉強にはかなり有効である。以上。(2009/08/14)