京極夏彦著『死ねばいいのに』講談社、2010.05

電子書籍として出版されたことでも話題を呼んだ、ご存じ京極夏彦による、初めて現代を舞台とした長編小説である。『どすこい(仮)』も部分的にはそうだったかも知れないが、短編集なので除外。何が除外何だか分からないが。元々は『小説現代』に連載されていたもので、最後のところだけが書き下ろし、となっている。ここが凄いのだけれどそれは措くとして、と。
さてさて、本書においては、この著者らしい非常に凝ったシチュエーションとキャラ配置、そしてまた章構成がなされている。各章は「一人目。」「二人目。」…「六人目。」とタイトル付けされており、「六人目。」のところが書き下ろし、となる。
記述のありようとしては、阿佐美という若い女性が死んでいて、各章では基本的に、その知り合いだというケンジだかケンヤという男が阿佐美と生前関わりのあった人のもとを訪ね、阿佐美という女性について知っていることを聴く、という構成になっている。各章の視点は、常に訪ねられる側にある。
ところで、実は、これ以上書いてしまうとネタバレになってしまう、のである。なので、中身についてはこの位で。取り敢えずは、その鮮やかな仕掛けっぷりを是非堪能いただきたいと思う次第。特に、ケンヤが持つキャラ立ちのすさまじさ、そしてまた人の世というものに対する著者独特の諦観というか諦念のようなものが印象に残る傑作である、と述べておきたい。
ついでながら、基本的に本書は、系譜的には京極氏が書き紡いできた一連の江戸もの長編に連なるのではないか、と考えている。加えて、ここでもう一つ書いておきたいのは、この作品が、極めて舞台劇向きである、ということである。是非実現させて欲しいと思う。以上。(2010/09/07)