竹本健冶著『狂い咲く薔薇を君に 牧場智久の雑役』カッパ・ノベルス、2006.04
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寡作作家・竹本健冶による、元々コミックの原作として構想された三つの作品からなる中編集である。全て光文社が出している季刊ミステリ誌『GIALLO』に掲載されたものなのだけれど、そんなことから同誌についてちょい調べてみたところ笠井潔の「矢吹駆もの」第6作が連載されていることを今頃になって気付いた次第。「そんなことはどうでも良い」、と言われればそれまでなのだが…。
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話を戻して、と。本書はいわゆる「牧場智久もの」に属する作品群なのだけれど、元々がそれとは無関係に構想されたものである故か、牧場智久の活躍はさほど全面的なものではない。どの作品も語り手の「津島海人(うみひと)」と、彼があこがれる牧場シリーズの主要登場人物である「武藤類子」が通う「明峰寺学園高校」で起こる奇妙な事件とその顛末が描かれる、言ってみれば「学園もの本格ミステリ」となっていて、そのライト・ノヴェル的なテイストと、竹本らしい奇想の融合は見事であると思う。
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ちなみに、竹本の『ウロボロスの純正音律』は講談社からとうとう今月刊行になる模様。うーん、ついに出るのか、と今から待ち遠しい限りである。2,940円という値段はとても気になるところだけれど…。どういう厚さになっているんだろうか。以上。(2006/09/04)
森博嗣著『レタス・フライ LETTUCE FRY』講談社ノベルス、2006.01
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植物のレタスを揚げたモノを意味するのか、「let us fly」をもじったモノなのか、あるいは別の意味なのか正直なところ良く分からないタイトルの短編集。2004年から2005年末くらいまでに書かれた作品と書き下ろしが一つ収録されている。第1編が瀬在丸紅子もの短編、最終第9編が西之園萌絵もの短編で、最初から2編目と最後から2編目がこの人らしいファンタジィ短編になっていて、真ん中の5編がショート・ショートという、シンメトリカルな構造を持つ書物である。
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狭義のミステリとは呼び得ない作品が多いので、その点については例えば帯の宣伝文句を信用してはならない。一応本格ミステリ的な体裁を持つのは第1編と第9編のみとなっている。そして、ここからが大事なのだが、この2作品の出来は余り芳しいものではない。どちらも、何とでも解釈できる謎をたくさん提示しておいて、さほど驚くほどのものではなくしかも何ともまとまりの付かない解決案を示す、というような感じの仕上がり具合なのだが、洗練された長編群を数多く書いてきたこの作家が、何故にこれほど散漫な作品を書かなければならないのか今一つ理解できかねた次第。論文だったら間違いなく「ボツ」である。まあ、むしろその他のファンタジィと呼ぶべき作品群には見所が多々あることことは述べておこう。
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ちなみに、第9編のオチが良く分からなかったのだけれど(「その人物」が誰なのかはすぐに分かったのだが)、どうもこの作家の作品には以前に公刊されているものを読んでいないと理解できない部分が多々含まれていて、これもどうやらその部類らしい。その是非については基本的に「非」だと思っているのだがそれは措くとして、一連の犀川&萌絵もので読んでいないのは多分短編集『今夜はパラシュート博物館へ』(講談社文庫、2004)と『虚空の逆マトリックス』(講談社文庫、2006。余談なのだけれど、森博嗣はかつて『C言語によるマトリックス演算』という本を書いている。)に入っている作品くらいしかないと思うので、この辺りを近いうちにチェックしてみたいと思う。以上。(2006/09/09)