鈴木光司著『神々のプロムナード』講談社ノベルス、2005.01(2003)
すでに単行本で出ていたもののノベルス化。1990年代を席巻した作家の現状が良く分かる作品。謎の失踪を遂げた友人の妻とその消息を追う主人公が、その背後にはとある宗教組織の存在があることを突き止め、というような話。確かに、文章は上手だしプロット構成も巧みなのだけれど、いかんせんテーマや登場人物の行動原理などが古臭すぎるように思った次第。どう考えても誤読されるだろうラストや(思考停止はまずい、っていうことが言いたいのだろうけれど、既に思考停止している読者達には間違いなくその反対に読めてしまう。)、そこへ至る終盤の流れにも腑に落ちない点が多い。要するに、本書に書かれているような形でメディアに露出したとしても、そこから先はこれほど簡単に事が進むとは思えないのだが。そんなところで。(2006/05/08)
麻耶雄嵩著『名探偵 木更津悠也』光文社カッパ・ノベルス、2004.05
やや古いのだけれど、このところコンテンツ更新が余りにも少なくなっているので簡単な紹介を。本書は数年に一本程度のペースで長編作品を刊行するという超寡作作家である麻耶雄嵩が2001-2004年にかけて発表した、大変貴重な短編4本を収めた作品集。タイトル通り「名探偵」を名乗る木更津悠也とその「助手役」的存在である香月実朝の活躍を描く本格ミステリ短編集なのだけれど、どの作品も短編とはいえ普通の作家なら長編にしてしまうほどの密度の濃いものばかりなところがミソだろう。何しろ個々の作品に登場する人物が短編とは思えないほど多いのである。確かに小さな本だけれど、紙と鉛筆を用意してじっくりお読み下さい。以上。(2006/05/12)
福田アジオ著『歴史探究の方法 ―岩船地蔵を追って』ちくま新書、2006.05
民俗学者である著者が、基本的に関東地方に分布する「岩船地蔵」について、30年来集めてきた資料によってその淵源や実像に迫ろうとする書物である。福田アジオの仕事というのはある意味、口承や口伝、あるいは聞き書きを重視する民俗学の手法を補うものとしての、日本社会などには大量に保存されている文字資料の有効性を謳い、かつまたそれを実証してきたもの、ということが出来ると思うのだが、この本などはその典型例となっている。
さて、岩船地蔵というのは栃木県南部にある「岩船山高勝寺」から各地に「村送り」という形で伝播したもので、その時期は江戸前期、特に享保年間、それも4-5年に集中しているのだそうだ。本書ではその大流行の模様を文字資料によって再現することや、地蔵像の「横向き」「前向き」という二系統の存在からその伝播経路を推定することが試みられている。
本人も語るように、「なぜ」このような流行が起きたのか、「誰」が起こしたのか、ということが明らかになったわけではないけれど、少なくとも「どのように」それが起きたのかについてはかなり明確になったわけで、それはそれとして大変価値のあることではないかと考える次第である。以上。(2006/05/28)