清涼院流水著『彩紋家事件 前編・後編』講談社ノベルス、2004.01-02
昨年の初頭に出たものだけれど、やっとこさ読了したので紹介する。本書はJDC(日本探偵倶楽部)シリーズの一角を占めているもので、著者が「四大悲劇」と呼ぶものの第3弾、ということになる。デビュウ作『コズミック』やその次の個人的には最高傑作だと思う『ジョーカー』(どちらも講談社文庫に入っていると思う。)でも既にその存在が仄めかされていた1970年代終盤に起きた事件で、これまた著者によると、後に言う「犯罪革命」となった大事件、ということになる。
『前編』は「極上マジックサーカス」、『後編』は「下克上マスターピース」と副題が付けられているのだけれど、その名の通り前編では彩紋家の面々を主要メンバとする奇術団の舞台とその種明かしの一部が延々と記述され、後編では彩紋家を中心に起こる連続怪死事件についての謎解きを含め、確かに前編を遥かに超える形で本書を含む実に巨大な物語構造が次第に明らかにされていく、という趣向をとる。
この人ならではの言葉遊び満載の大変良く出来た作品で、感服した、というか存分に笑わせてもらった。マジックサーカスのどう見てもだらだらした記述(「奇術」と同じ発音だったり…。ちなみにこの部分は確かに物語の構成上不可欠には違いないとは言え長い。)が続く前編途中で投げ出してしまう読者が多いと思うのだが、いっそのことここは読み飛ばして先に進んだ方が良いかも知れない。記述に繰り返しが多い「親切」な作品なので、そういう反則的な読み方をしてもそれはそれで問題はない。
まあ、何と言ってもこれだけ手品や奇術のタネを盛り込んだ小説というのは見たことがなかったわけで、そういうものは恐らく存在しないだろうし、最期の方で明かされる事件のとんでもない真相には瞠目した次第。特に、後編373-374頁の記述などは、一応ミステリ史上に残るものではないかとさえ思う。
ちなみに、細かい点だけれど、後編287頁の「今年の一月十九日」という記述は「十八日」が正しい。毎月「十九日」に事件が起こることなどを含め、徹頭徹尾「十九」という数字にこだわった作品とは言え、これは明らかにミスである。以上。(2005/12/19。って、19日なのか…)
森博嗣著『ナ・バ・テア None But Air』中央公論新社C・NOVELS、2004.11(2004.06)
既に文庫化されている(2005年11月刊行)、未来のようなのだがプロペラ機での戦闘が主流な架空の世界における飛行機乗りたちの活動を描くファンタジィの第2弾。話としては第1弾『スカイ・クロラ』(2001年刊。現在は中公文庫。)に登場した草薙水素(くさなぎ・すいと。ちなみにサイボーグではありません。)という人物の過去を描いたもの。「ふーむ、そうだったのか。」という感じなので、第1弾を読んでいないと全く楽しめないと思う。飛行機の重さと機動性についての記述が個人的には面白かった。揚力、重力、空気抵抗その他の力が複雑に絡み合うはずなので、確かに風洞実験みたいなものあるし、コンピュータでのシミュレーションも可能だとは思うけれど、実のところは「飛んでみないと分からない」ものなのかも知れない。以上簡単ながら。(2006/01/10)