森博嗣著『探偵伯爵と僕』講談社ノベルス、2007.11(2004)

講談社のジュブナイル・ミステリ叢書である「ミステリーランド」の一冊として出ていて結構好評だった模様の作品を新書化したものである。「探偵伯爵」を名乗るエキセントリックな人物とふとしたきっかけで知り合ったある小学生の視点から、二人の交流を丁々発止の言葉の掛け合いを交えて描きつつ、更にはその小学生の周辺で勃発したどうやら誘拐らしき事件とその顛末を綴っていく。
在り来たりなようでいて、しかしながらなかなかに奥が深い物語自体も面白いのだけれど、探偵伯爵と少年が繰り広げる、例えば端的に言えば死刑制度、あるいは処罰・復讐を目的とする殺人の是非等々に関する議論こそがこの本の主眼なのではないかと思うし、その部分を興味深く読ませていただいた次第。これはS&MものでもH&Vものでも、あるいは「スカイクロラ」シリーズでも度々出て来た論点なのだけれど、分かり易く、そしてまた良く煮詰められていると感じた。以上、取り敢えず紹介まで。(2008/03/06)

山田正紀著『ゴースト 創造士・俎凄一郎 第1部』講談社ノベルス、2007.09

名古屋出身の天才エンタテインメント作家・山田正紀による新シリーズ「創造士・俎凄一郎(まな・せいいちろう)」ものの第1弾である。元になっているのは『メフィスト』連載の「予備役刑事 トリプル・クロス」という作品で、ノベルス化に伴い大幅に加筆・修正が施されている模様。まあ、「第1部」と銘打っていてもこの作家の場合は本当に続編が書かれるかどうか謎なところもあり(出版事情によるところが大きいと思われるのだが…)、今回はこの1冊で打ち止めにならないことを祈るのみではある。
物語の舞台となるのは、副題になっているいかにも山田らしいネーミングの「創造士・俎凄一郎」がデザインしたとされるとある街=蒼馬市。10年前に6歳の子供を轢き殺し、服役を終えた後にその事故の真相を探るべく再度この街を訪れた中年男性が遭遇する異様な事態が中心プロットをなし、それに併行してケーキ・バイキング殺人事件、ホステス宙づり事件、自動車炎上死事件という三つの不可解な事件とその顛末が一応単発のエピソードとして紡がれていき、やがてそれらの間から一つの形が現われ、というような構成のお話。
この作家らしいモティーフが多々登場してその辺も同氏のファンとしては大変楽しめるのだが、例えば「囮捜査官」シリーズもそうだったけれども兎に角この作品の場合1冊に詰め込まれているアイディアの数が尋常ではなく、もう少し薄め気味で書いても良いのではないかとも思ってしまった。まあ、アイディアは尽きない模様なので別段こちらで心配する必要もないのではあるが。それはさておいて、次はどんな街を描き出してくれるのか、楽しみである。(2008/05/11)