兵藤裕己著『琵琶法師 ―<異界>を語る人びと―』岩波新書、2009.04
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『平家物語』や『太平記』などに関して、独自の見地から数々の著述を行なってきた兵藤裕己(ひょうどう・ひろみ)が、そうしたテクスト群とはその作り手であり語り手であり、伝承者であり読み手であり、といったような形で極めて深い関係にある琵琶法師について、丁寧に論じた好著である。
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本書の記述は、琵琶法師の登場から『平家物語』の成立について、あるいは近世以降の変遷から今日の姿までをもつぶさに追っているが、中でも特筆すべきところは、琵琶法師の語りを「自己同一的な発話主体を持たないモノ語り」、とし、そういう視座から、近代以降の主体や自己意識成立後の解釈からはすり抜けてしまいがちな琵琶法師像を改めて浮かび上がらせようとした点にあるだろう。膨大なテクスト群を読み解いてきた著者ならではの鮮やかな分析が、各章で行なわれているのである。
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また、もう一点、1996年にこの世を去った琵琶法師・山鹿良之(やましか・よしゆき)の演唱をDVDとして付けたことには大きな意義がある。コトバによる分析では到底届き得ないものが、そこには多く含まれているからである。是非、それを手にとって確かめて頂きたい。以上。(2009/07/28)
山口雅也著『PLAY プレイ』講談社ノベルス、2008.09(2004)
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奇才・山口雅也による、2004年単行本刊行作の新書版である。収録されているのはタイトルの通り「遊び」をテーマとする4編の短編。以下、簡単に概要紹介を。
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巻頭の「ぬいのファミリー」はぬいぐるみを愛してやまない天才外科医とその家族の引き起こす騒動を、2作目「蛇と梯子」ではインド在住の家族があるボード・ゲームによっておかしなことに成っていく様を、第3作「黄昏時に鬼たちは」ではリアル・隠れ鬼を、そして最後の「ゲームの終わり/はじまり」では殺人をテーマとするヴィデオ・ゲームと現実との混淆をそれぞれ描いている。
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ミステリというよりはホラーに近い作品群なのだけれど、それでもなお、この作家らしく奇想に満ちているし、全く在り来たりではない作品ばかりで、思わず微笑まずにはいられない。基本的にはミステリしか書いていない山口雅也が、ミステリのテイストは残しながらも、やや路線の違うジャンルにチャレンジした珍しい1冊、とも言えると思う。以上。(2009/08/21)