広井良典著『コミュニティを問いなおす ――つながり・都市・日本社会の未来』ちくま新書、2009.08

第9回大佛次郎論壇賞を受賞した、好評をもって受け入れられた書。著者あとがきによれば、岩波書店から2009年1月に刊行された『グローバル定常型社会 ――地球社会の理論のために』と対をなすということになる著作なのだが、要するに、本書ではローカルの側から、『グローバル…』ではグローバルの側から同じテーマを扱っている、ということになる。
そのテーマとはすなわち、コミュニティ、つまりは人と人との関係性のありようが現在どのような状況に置かれていて、そこにはどのような問題があるのか、そして将来において生じうるのか、そしてまた、そうした問題はどのようにすれば解消されうるのか、といったことになる。
本書において著者が最も言いたいこと、というのは結局のところ、275頁から276頁辺りにまとめられているような、ローカルからの出発という理念がこれからの時代には重視されるべきものであるのだが、とは言っても「コミュニティ相互のコミュニケーションやグローバル・レベルの普遍的な価値原理」を無視することは出来ない。これからの世界を作る、あるいはそこで生き抜くための思想とは、多様性と普遍性、あるいはローカルとグローバルという二つの原理が持つ緊張関係の中で醸成されるべきものだ、といったことになるのだろう。
全体として要約不可能なほど多岐にわたる議論がなされていて一冊の本としては散漫な印象が否めない、第7章と終章が大風呂敷過ぎる、そしてまた具体的で個別な事例の紹介とその詳細な分析、およびそこから導かれる事柄を示していないのが問題と言えば問題なのだが(最後のものが一番大きな問題。実のところ、この本は全然私たちが身近に接している現実を扱っている気がしない。)、コミュニティというものに絡む問題群(都市化・グローバル化・福祉・地域再生等々)を一カ所にまとめ、一つの筋道をつけた功績は大きいだろう。
余談だが、個人的には、色々なことの国際比較が行なわれている第2部に最大の興味を持って読んだ。単純に、授業などで使える、という理由からである。(2010/06/07)