夢枕獏著『闇狩り師 蒼獣鬼《新装版》』トクマ・ノベルズ、2009.08(1990)

身長2m、体重145kgの肉体派陰陽師・九十九乱蔵の活躍を描く「闇狩り師」シリーズ初の長編『蒼獣鬼《妄霊編》』と『蒼獣鬼《異神編》』を合本し1冊にした新装版である。オリジナル刊行はシリーズが始まった1984年から6年後の1990年。最新長編が去年刊行、となるのだが、何とも息の長いシリーズと申しますか…。それはさておき、と。
物語はまさしくその後書かれることになる「陰陽師」シリーズを彷彿とさせるものであり、かつまた非常にヴァイオレンスの要素が強いもの。いざなぎ流ならぬいざなみ流の血脈に連なるという鳴神素十(なるかみ・そじゅう)と、伝説にして最強の霊能者として知られる戸田幽岳(とだ・ゆうがく)がその浅からぬ因縁によって対立する中、乱蔵は素十の娘・小百合からその弟・真人の「保護」を依頼され、やがてその世界の行く末をも左右するような係争に巻き込まれていくことになる、というお話。
物語自体は中編規模の中身しか持っていないのだが、この人の各場面各場面をはっきりと読者の頭に浮かび上がらせる描写力というのは実にたいしたものであって、そこを堪能すべきなのだと思う。そしてシリーズは、既に新装版が出ている『崑崙(くろん)の王』、そして昨年刊行のシリーズ最新作『黄石公の犬』へと続く。以上。(2010/03/24)