長谷川喜美著『英国王室御用達 知られざるロイヤルワラントの世界』平凡社新書、2011.06

フランスの革命記念日にお隣の国のことを書いた本について紹介するのもなかなか楽しいことなのだがそれはさておき。
本書は、「英国王室御用達」とされる商品群について、現地取材、インタヴュウを通じて得た情報を基にして、極めてきめ細かく解説したものである。図版は豊富ではあるが、本書では後にも述べるようにそれらではなく、あくまでも文章による解説が中心。類書として例えば、恒松郁生・岡村啓嗣『英国王室御用達』(小学館、2001)、『ロンドン『英国王室御用達』案内』(東京地図出版、2009)という2冊が出ているのだが、これらは基本的に図版中心の書物。なので、これら先行する類書とは一線を画している、ということになるだろう。
さて、ロイヤルワラントとは、王室が発行する認定証のこと。名だたるブランド、意外なブランド、そしてまた日本人には余り馴染みのないブランドまでを入れて約800社、1000点を超える商品があるらしい。日本のいわゆる「宮内庁御用達」とは異なり、認定基準は極めて厳しく、取り下げになることもある、とか。
そんな商品群について、著者はイントロダクションである第1章に続けて、「クラフツマンシップ」、「英国の正統」、「イングリッシュテイスト」、「ジェントルマン文化」といった語をタイトルに入れた四つの章で紹介していく。各章で扱われるのはそれぞれ5つの銘柄、である。
このような構成からは、本書が一つ一つの商品をズラッと並べて紹介しようとした書物ではなく、むしろそれらをあるテーマのもとにまとめながら、商品そのものではなくそこにある英国っぽさであるとか、英国流の職人気質のようなものについて語っていくことで、「ロイヤルワラント」なるものの本質を浮かび上がらせよう、という方針で書かれたことが読み取れるのだが、個人的にはこの辺りに著者の気骨というか、それこそジャーナリストとしてのクラフツマンシップのようなものを感じたのだった。
勿論、せっかくここまで書いたのだからもう一歩踏み込んでこれまでに書かれてきた英国文化論を踏まえるような形で、英国っぽさや職人気質について分析をして欲しかった点、付け加えると地図を付して欲しかった点等々、やや無い物ねだりな感じの要望は湧いてくるのだが、本書の目的が分析ではなくあくまでもそれら(英国っぽさやクラフツマンシップ等々)についての紹介、ということであるならばその目的は十二分に果たしているように思え、また、単純に非常に愉しめた次第である。以上。(2011/07/14)