黒沢清監督作品 『トウキョウソナタ』
随分前に観たのだが何となく紹介が遅れていた、黒沢清監督、香川照之・小泉今日子主演による2008年のカンヌ国際映画祭で「ある視点」部門審査員特別賞を受けたホームドラマである。昨秋公開だけれど、恐らくはそもそも上映用のプリント本数が少ないのと、それに加えて評判は悪くないためか、今でもかなりの数の映画館で上映されているし、これからも随時上映される模様。見逃していた方は是非、ということである。
話は単純明快。リストラされたサラリーマンの佐々木竜平(香川照之)が家族にそれを隠して会社に通う振りを続ける中、妻(小泉今日子)との仲は何となくギクシャク、大学生の長男(小柳友)は日本を出て米軍に入ると言い出すし、小学生の次男(井之脇海)は親に黙って美しいピアノ教師(井川遙)のもとでピアノを習い始めるし、といった具合に佐々木家は崩壊寸前。それぞれのバラバラなベクトルは果たして収束に向うのか、はたまた行くところまで行くのか、という流れで物語は進行する。後は観てのお楽しみ。
終盤に黒沢清映画には欠かせない役所広司が強盗役で出てくるのだが、この役やこの役を中心としたエピソードはこの映画の流れからしてちょっと不自然ではないか、と思った次第である。つまり、あくまでもホームドラマでまとめるべきだったのではないか。タイトルからしてこの映画は小津安二郎に捧げられているのだから、刑事事件が挟み込まれるのはちょっと、なのである。
それでもなお、安定した演技で定評のある香川照之による、厳格な父と惨めなリストラサラリーマンという二面性を見事に表現する力量には舌を巻かざるを得ないし、小泉今日子による超若作りな大学生の母親振りも悪くない。最大の収穫は井之脇君で、今後どんな俳優になっていくのか本当に楽しみ。ついでに言うと話の収め方も納得。C.ドビュッシィの余りにも有名な曲が用いられているのだけれど、映画のタイトルと微妙にズレているのを感じつつもやはり納得してしまったのであった。以上。(2009/01/17)