スティーヴン・ケイプル・ジュニア監督作品 『トランスフォーマー:ビースト覚醒』
2007年に第1作が公開されたロボット・アクション・シリーズの第7作にして、2018年公開の映画『バンブルビー』(原題:Bumblebee。「トランスフォーマー/Transformers」の名をを冠していないが、シリーズ内の作品。)の続編、となる。原題はTransformers: Rise of the Beastsで、日本語にすれば「獣たちの蜂起」くらいだろうか。監督は『クリード2』で有名になったスティーヴン・ケイプル・ジュニア(Steven Caple Jr.)が担当している。ちなみに、このシリーズの立役者であるマイケル・ベイ(Michael Bay)はプロデューサの一人としてクレジットされている。
時は1994年。家庭の事情で米陸軍を除隊した無職の青年ノア・ディアス(アンソニー・ラモス Anthony Ramos)は、悪い仲間に誘われ自動車泥棒を働こうとしてトランスフォーマーの1体ミラージュと出会う。一方、博物館で働く若い女性エレーナ・ウォレス(ドミニク・フィッシュバック Dominique Fishback)は、どこからか偶然運ばれてきた遺物に隠されていた禁断のテクノロジーであるトランスワープキーを起動させてしまう。
これを察知した、キーを狙うユニクロン配下のテラーコンが地球に来襲、我らがオプティマス・プライム率いるトランスフォーマー達と上記2名の人間はこれに対抗すべく、二つに分割されたキーの片割れを捜してペルーへと向かう。そこには、地球に逃亡してきて以来キーを守ってきた獣の形をしたマクシマルと人間が共存する村があった。やがて再び現れるテラーコンに、彼らはどう対抗するのか、というお話。
惜しい。『バンブルビー』と同様に、このシリーズ、というか最近の映画としては結構短い。コンパクトなのは良いことで、まあそんなに退屈はしないし、バトルシーンなども本当に良く作り込まれているのだが、やや残念なところが2点。
その1。このシリーズの面白さは、1作1作がその都度その都度ちゃんとオリジナルなテーマを持っていて、単純に敵味方に分かれての乱闘とか、地球を守るヒーローたちの活躍を描いたものでは全然ないところなんだと思う。で、今回も1990年代アメリカ社会の在りようを色濃く反映していたり、後半ペルーに行ったり、マチュピチュでロケをしていたりしてその辺は面白いのだが、せっかくそこまでやったのだからマクシマル(=ビーストたち)とインカの神話を繋げて欲しかった。藤木稟なら絶対やっている。
その2。主役の人間二人を色々な事情を配慮しつつヒスパニック系、アフリカ系に割り振って、それなりに感動的なドラマに仕立てているのだが、どうにもトランスフォーマー側の主役にされてしまっているミラージュの配し方が微妙。普通に考えると、今作の主役は、どっちかと言えばマクシマルの一体であるオプティマス・プライマル(声はロン・パールマン Ron Perlman。ちなみに、日本語吹き替え版は子安武人。)であるはずなのだが、この辺の掘り下げが浅すぎる気がする。例えば、だが、エレーナとプライマルを何らかの形で関係づける方向もあったのでは、などと考えてしまう。
そんな具合で、この作品、肝心なところが抜け落ちている感じが否めない。色んな案が出ては消え、そんなこんなで当初の計画からかけ離れた作品になってしまったんだろうな、と思う。5年掛かって、やったことは色んなアイディアを予算や尺の関係で次から次に没にして、結局スカスカな内容の映画を作ることだけだったのか。本当にやりたかったことが垣間見えるだけに、誠に惜しい作品になってしまった。
元々1990年代ヒップホップ+ニューヨーク辺りでコンパクトに作る予定が、別のデカい企画用に頼んでいたマチュピチュでのロケ許可が下りて慌てて合体させた、というのもあり得る気がするな。『バンブルビー』を見る限り、方向性としては本来前者だったのでは?ああ、エンターテインメントを素直に楽しめず、色々と裏事情を感じ取ってしまう年齢になってしまったものだ…。
やや蛇足。『バンブルビー』は1980年代の話なのでニューウェイヴ、今回は1994年代の話なので上述の通りヒップホップが基調なのだけれど(後半はアンデスの音楽だが。要するに繋がりは全くない。せめてアフリカに飛んで欲しかった…。)、2PACは音源として使われていない、よね?ちょっとベタ過ぎるのかも知れないが、これも企画段階で消えた事柄の一つかも知れない。以上。(2023/08/30)