Terrence Malick監督作品 『トゥリー・オブ・ライフ』
超寡作映画作家テレンス・マリック(Terrence Malick)による通算5本目の長編映画である。原題はThe Tree of Life。第64回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞という極めて高い評価を受けた作品で、日本公開は異例にもそれからわずか数ヶ月を経てなされた。その理由は次の事実によるものと思われる。すなわち主演はブラッド・ピット(Brad Pitt)、ショーン・ペン(Sean Penn)、ジェシカ・チャステイン(Jessica Chastain)の3人。超豪華キャスト、である。
毎度のことながらその語り口は独特だが、物語自体はそれほど複雑ではない。多分アイルランド系移民の子孫なのだろういかにも中産階級な男オブライエン(ブラッド・ピット)とその妻(ジェシカ・チャステイン)の間には3人の息子がいた。その長男がジャック(ショーン・ペン)。厳格でいつも成功哲学を説く父と、子供たちに惜しみない愛情を注ぐ母の間で育ち、やがてビジネスマンとして成功したジャックは、その幼かった日々、あるいは若くして死んでしまった弟と暮らした日々の思い出に浸るのだった、と要約できてしまう。
この映画において重要なこと、あるいはこの映画が真に語ろうとするのは、勿論そうしたおおまかなプロットではない。冒頭、弟の死にまつわるエピソードから映画はスタートするが、映画の視点は一気に人のレヴェルを飛び越えて地球の誕生、生命の起源、脊椎動物の登場、人類の発生にまで飛躍する。そんな大枠を提示しながら、今度は手のひらを返した様に1950年代のアメリカにおける中産階級の家族がどのようなものであったのかを、精緻なカメラワークときめ細かい編集によって克明に描いていく。そのようにして、この映画を観るものは、人間存在というものについての深い思考を要請されることになるのである。
映像にも鳥肌が立つのだが、サウンド・トラックも見事なもので、売り出し中の作曲家アレクサンドル・デプラ(Alexandre Desplat)によるものを中心に、珠玉の名曲が並ぶ。中でもベルリオーズ(H.Berlioz)のレクイエムからのチョイス("Agnus Dei")はこれまた鳥肌もの。映画全体がジャックの弟に対する鎮魂、という意味も与えられているので、ベルリオーズのみならず、例えばズビグニフ・プレイスネル(Zbigniew Preisner)による"Lacrimosa"等々、レクイエムを構成する楽曲があちこちに用いられている。圧倒的な映像美のみならず、そんなところにも是非心を留めて頂きたいと思う。以上。(2011/09/22)