ジェイムズ・マックテイグ監督作品 『V フォー・ヴェンデッタ』
いわゆる独裁国家ものにして復讐劇。『マトリックス』シリーズのアンディとラリィのワシャウスキィ兄弟(Andy, Larry Wachowski)が製作と脚本を担当。監督のジェイムズ・マックテイグ(James McTeigue)も『マトリックス』シリーズの助監督をしていた人。というような感じのスタッフで送るアメリカ・ドイツ合作の超大作である。堂々とクレジットされているから気づく人も多いと思うのだが、あの「エージェント・スミス」=ヒューゴ・ウィーヴィング( Hugo Weaving )も出演している。
基本的にこの映画、保守党のサッチャー政権下だった英国で1980年代に作られた同名コミック(ここに詳しい情報あり。邦訳も刊行されています。)がもとになっていて、ストーリー自体はほぼそのまま。ただ、あの兄弟が脚本を担当しているせいか、最近の日本製コミックやアニメーションから幾つかの要素を持ってきているように思ったのだけれど(浦沢直樹のあれとかProduction I.G.のあれとかですね。)、まあ、それを言ったらそもそも例えば浦沢のコミック自体、この映画の原作から多大な影響を受けているような気もする。この辺の相互参照性については誰かがきちっと調べてくれるとありがたいと思う。
さてさて、中身についてだけれど、序盤の「放送局ジャック」まではアクション映画なのだな、と思って観ていたのだが、その後の展開はかなり地味なもの。独裁国家の誕生秘話が明かされつつ、それに加担した者達が暗殺されていきつつ、単身で国家に反抗する仮面の男“V”をとある刑事が追いつめていきつつ、というようなもの。まあ、やたらと長広舌な“V”をはじめとして、兎に角台詞の多い映画で、それは多分原作が英国製だからなのだけれど、そういう英国演劇の伝統を引き継いだ対話劇はなかなかに見応えというか聴き応えのあるものだった。なお、主人公“V”の仮面を含むファッションというのは所謂「ガイ・フォークス( Guy Fawkes )人形」と呼ばれるものと同じ意匠で構成されていて、この人物にまつわる様々な逸話や行事にもとても面白いものがあることを付け加えておこう。
ところで、同名コミックが下敷きにしていたはずのG.オーウェル( George Orwell )作『1984年』だの、やはり1980年代に作られたテリー・ギリアム( Terry Gilliam )監督による奇跡的な映画『未来世紀ブラジル』、あるいはすでに引き合いに出した浦沢のあれといった一連の独裁国家ものに見られるような「深み」はこの映画にはなく、要するにこの映画で描かれる独裁国家が何とも脆弱かつ単純なもので、一人の男によってあっさり転覆可能なもの、という設定については多分に不満なのだった。(2006/05/13)