Terry Gilliam監督作品 『ゼロの未来』
本欄ではおなじみの、Canada出身のカルト映画作家テリー・ギリアム(Terry Gilliam)による最新長編映画である。原題はThe Zero Theorem。公開は英語圏などでは2013年だが、諸事情により日本公開は本年(2015年)、となった模様。まあ、カルト映画なので…。
主人公のコーエン・レス(クリストフ・ヴァルツ Christoph Waltz)は世界を支配する巨大なコンピュータ企業Mancomの優秀なエンジニア。その優秀さとは裏腹に、自分の存在理由について悩み、そしてまた就いている職務について不満と疑問を抱える彼は、ある日Mancomのトップであるマネージメント(マット・デイモン Matt Damon。いや〜、良く出てますね〜。)から、「ゼロ理論を解いて欲しい。」という依頼を受ける。
難攻不落とも思える理論に悪戦苦闘する彼の前に、セラピストのDr. Shrink-Rom(ティルダ・スウィントン Tilda Swinton)、ヴァーチュアル娼婦・ベインズリー(メラニー・ティエリー Mélanie Thierry)、マネージメントの息子にして天才プログラマのボブ(ルーカス・ヘッジズ Lucas Hedges)等が現れ、様々な「協力」を始めるのだが、事態は次第に混迷の度合いを深めていき…。というお話。
『未来世紀ブラジル』(1985)という途方もない傑作を30年前に作った同監督が、改めて、そしてまた現実はそこにより近づいてしまったかに見える今日という時代に、高度に情報化された監視社会への批判的な問いかけを行なった作品、と一応総括できるのではないかと思う。全てが電子的な情報に置換されうるような時代において、人間存在に一体何の意味がありうるのか。自己の全存在をかけてなされる、主人公のある種「最後の悪あがき」のもたらす結末は、『ブラジル』と同じく極めて切ない、しかしながらどことなく甘美なものなのである。
さて、全体を通じて、根本的な問題としての世界観の伝わりにくさ(もうちょいちゃんと「人間原理」に言及して欲しかったかも。そういう話ですよね?)、あるいはまた主人公への感情移入の困難さ等々、個人的に不満な点は幾つかあったのだが、その風刺精神というか批判精神の健在ぶり、ちょっと話は変わるがやっぱりこの人ヘンテコなものが好きなんだな、と再認識させてくれる美術や音楽のぶっ飛びぶりにはひと安心した。この勢いで、かねてから噂があっては立ち消えてきた『ドン・キホーテ』を是非とも完成させてほしいものだ、と思った次第。
ちなみに、「ベインズリーのテーマ」と言っても良い、劇中繰り返し流れるメイン・テーマの元曲は、誰もがすぐには気づかないと思うのだがRadioheadのかの名曲。トム・ヨーク(Thomas Edward Yorke)の手による素晴らしい詩を、エンドロールとともに是非とも噛みしめて頂きたい。以上。(2015/05/17)