「託宣の広報と記録を巡って−山形県東田川郡三川町成田新田の事例より−」『東北民俗』第35輯、2001.06.16
庄内地方のミコ・ミコドなどと呼ばれる口寄せ巫女に関しては、東北日本の他地域に比して調査報告も少なく、その現状等は未だつまびらかにされていない。本稿では、筆者の調査によってその業態等が明らかになった、近年まで同地方で巫業を営んできた口寄せ巫女のうち、東田川郡三川町猪子に住むO・M巫女の事例を取り上げ、同巫女が猪子の隣村である成田新田で行なってきたカミオロシ=託宣の、文字による広報と記録保存に関して考察を加えた。その担い手である巫女達が持つ「盲目」という身体的特徴により、その口承性・口頭性への関心は古くから存在した巫俗研究ではあるが、一旦依頼者側の行為、例えば本稿で扱ったような、託宣の文字を用いた広報・記録などに改めて目を向け直すことにより、実は巫者と依頼者の両者からなる宗教文化である巫俗の内部における、口頭文化と文字文化との交渉のありようやその変遷といった事柄が、決して無視することの出来ない重要な事柄であり、あるいはまた今後更に発展させていくべき研究課題であることが明確になったものと考える。