「日本における祖先祭祀研究の再検討」『白山人類学』第5号、1998
この論文では、私の研究対象である日本社会を中心に、今日までの多々ある祖先祭祀(崇拝)研究を概観しつつ、その課題と展望を論じた。私は、昨今のこうした研究では、親族組織や村落その他の社会構造と、人の「死」を巡る一連の儀礼その他の複合的な文化形態である祖先祭祀の関係性に注目するような、私見では最も妥当なものと考えている社会人類学的な方法論による祖先祭祀研究がないがしろにされているように感じている。ここではそうした、人の「死」の持つ社会性に関する分析をさらに深める必要性を再確認したのみならず、同時にまた、一個人としての「死」、すなわちいわば小文字の「歴史」性や「主体」性を持つ個人の「死」ともいうべきものへの注視の必要性が問われている、という複雑な状況が存在するということを指摘した。