第89回白山人類学研究会・報告レジュメ 於東洋大学甫水会館 2001/11/16

〈かたる〉カミを巡る人類学的考察

―山形県庄内地方における口寄せ巫女によるカミオロシの事例を中心に−

 本報告では、山形県庄内地方に住むミコ・ミコサンなどと呼ばれる、その大部分が盲目である口寄せ巫女達が行なってきた各種共同祭祀におけるカミオロシを事例として、彼女らの儀礼遂行時の発話行為という身体的レヴェルの事象と、カミオロシを含む共同祭祀のあり方や口寄せ巫女らの社会的位置付けといった社会的レヴェルの事象の関係はいかなるものであるか、ということを問題とし、考察を加えた。
 さて、ここで言う身体的レヴェルの事象とは、即ち口寄せ巫女によるカミオロシ=カミを憑依させての発話行為が持つ韻律性の有無、ということになる。1990年代後半に行なわれた報告者自身の調査により、この点に関しては以下のような事実が明らかになっている。

・宮城県北部及び岩手県南部沿岸地方や山形県最上・村山地方(内陸部)では、全ての口寄せ巫女についてほぼ例外なく、ホトケオロシとカミオロシのどちらもが、韻律性を伴っている。
・それに対して庄内地方では、7名の口寄せ巫女に関し、ホトケオロシとカミオロシについて前者では韻律を伴う〈うた〉、後者では韻律性の稀薄なフラットな〈かたり〉という形式で明確に口調を変える例が3例存在する。更に、カミオロシをフラットな〈かたり〉で行なう例は4例を数え、カミオロシとホトケオロシで口調を変える、という例が6例ある。

 また、社会的事象に関して言えば、
・宮城県北部及び岩手県南部や山形県内陸部では口寄せ巫女は共同祭祀に関与するとは言え、庄内地方に見られる男性氏子組織による極めて公的性格の強い祭祀への関与は認められない、

ということが明らかとなっている。
 こうした事実から、報告においてはまず第一に冒頭に述べたような身体的レヴェルの事象と社会的レヴェルの事象の関係という問題に対し、〈韻律性のないカミオロシは韻律性のあるカミオロシに比べより公的性格の強い祭祀と結びつきやすい〉という仮説を立てた上で、これについての更なる検討を加えた。