鈴木光司著『バースデイ』角川書店、1999.2
『リング』『らせん』『ループ』三部作の続編かと思いきや、単なる外伝集である。特に新しい情報は含まれていない。そのせいもあってか、べらぼうな速さで読み切ってしまった。結局、なんでループ界におけるリングウィルスが現実界に浸透すると伝染性ヒトガンウィルスに変化するんだかがよくわからん。ループ界と現実界は「相同性」みたいなものを持っている、ということだったんじゃないの?だから、ループ界でもイエス・キリストが誕生して西暦が用いられていたり、日本国が存在して山村貞子などという名前の女性が現れていたりするわけでしょう?しかし、発端であるRNAが同じだからといって、生物進化が相同性を持つのは理解出来るけれど、歴史まで似たような(あるいはほとんど同じ)ものになるんだろうか?やはり、更に上位の階層を考えないと、全ては説明出来ないのではないかと思う。そういうヴィジョンも確かにちょろっとは出て来るんだけれどな。それはそうとこの作品集、正直言って、余り面白くなかった。このつまらなさはどこから来るんだろう。「誕生」という本書の主要テーマが、さほど文学的に深められ、煮詰められていないからなのかも知れない。いかに想像力を駆使したとしても、所詮は出産経験を持つことが出来ない男性作家にはつらいところではあるとは思うのだが…。(1999/02/11)
「出産経験を…」などと書いてしまったが、最近の報道で男性でもとりあえず妊娠は可能であることを知った。ただ、男性の場合、腸膜に受精卵を着床させるというかなり無理のあることをせねばならず、そうすると当然産道がない訳だから最終的には切開して取り出すしかないということになり、それを「出産」と呼ぶにはかなり無理があるように思う。人口産道みたいなものが出来ればいいのだろうけれど。しかし、そこまでして自分の体内で胎児を育てる気になる男性が、果たしているのだろうか?お金はかかるし、無茶苦茶危険だしね。実現は人工子宮より後の話になるだろうし、人工子宮が出来てしまえばサイボーグ・フェミニストのような方々はこの問題にはもう触れなくなると思うので、結局は誰も見向きもしないテクノロジーかも知れない。(1999/02/24)