山田正紀著『五感推理シリーズ1 女囮捜査官 触覚』幻冬舎文庫、1998.2(1996)
山田正紀著『五感推理シリーズ2 女囮捜査官 視覚』幻冬舎文庫、1998.6(1996)
山田正紀著『五感推理シリーズ3 女囮捜査官 聴覚』幻冬舎文庫、1998.10(1996)
山田正紀著『五感推理シリーズ4 女囮捜査官 嗅覚』幻冬舎文庫、1999.2(1996)
山田正紀著『五感推理シリーズ5 女囮捜査官 味覚』幻冬舎文庫、1999.6(1996)
5冊纏める。特に本格ミステリ作家達において極めて評価の高いシリーズの文庫化である。徳間書店から出ていた時は、「触覚」は「触姦」、以下同様、となっていたせいもあり、官能小説と勘違いされたらしいのだけれど(出版社としてはそれを狙っていたのだとも思うが…。)、まあ、そういう面も皆無とは言えないながらも本シリーズを構成する5冊及びシリーズ自体は極めて完成度の高い本格ミステリなのである。兎に角、各編に盛られたアイディアの斬新さ、緻密さ、多彩さには眼を見はるものがある。2の首都高速○○ネタといい、3の誘拐の手口及び名簿ネタといい、4の京極夏彦風の人形ネタといい、どれをとっても誠に見事なものだ。そもそも、全編に通底する、犯罪心理学者・遠藤慎一郎が音頭取りとなり、彼が提唱する「被害者学」のデータ集めとして設置されたという設定の「特別被害者部」所属の「おとり捜査官」というアイディア自体が途方もなく素晴らしい。「生まれながらの被害者」と自覚している主人公・北見志穂は、それを逆手に取って難事件・異常犯罪者と対決する。というより、巻き込まれる、といった方が良いかも知れない。但し、これぞ究極のパッシヴ、かと思いきやそんなことはなく、この女性、終ってみれば随分と直接、間接を問わず積極的に人の死に関わってしまっていたりする。この辺りも京極の作品群に何となく通じる所もあるのだが、これ以上は述べない。これまで男性によって生みだされて来た数多くの女性を主人公とする主としてエンタテインメント系の作品において、そのヒロイン達というのは基本的に「強い」というのが常識的だったように思うのだけれど(勿論例外はある。)、本シリーズのヒロインは、ある意味で徹底的な迄に「弱い」のである。これもまた、画期的なことかも知れない。そういう点において、ファンタジーというよりはリアル・ノヴェルに近い設定なのだけれど、それでもファンタジーになっているところ辺りに、この作家の力量が余すことなく発揮されているように思う。尚、1、2、5における性暴力描写や、シリーズ全体における主人公の「生まれながらの被害者」という設定等は、「女性とは男性にとっては性暴力の対象に過ぎない。」という余りにもバカバカしい命題を忠実に体現している、という点で女性蔑視だ、性差別的だ、と言う事も不可能ではないのだけれど、やや弁護めくがこれは出版社側の要求により、やむを得ず、という事なのだろうと思う。圧力に屈する作家の自己投影という深読みも不可能ではない。しかし、もう少し表現上の配慮があれば、真の傑作となっていたであろう事を考えると、ちと残念な点でもある。出版界からの圧力に屈する振りを装いつつ、抵抗する、ということも文章表現上可能ではなかったか、と思う。京極のように時代設定を昭和20年代にする、というのも一つの手段であったろう。(2000/03/25)
平田篤胤著 子安宣邦校注『仙境異聞・勝五郎再生記聞』岩波文庫、2000.1
干宝著 竹田晃訳『捜神記』平凡社ライブラリー、2000.1
『風土記』平凡社ライブラリー、2000.2
Marco Polo著 愛宕松男訳注『東方見聞録 1・2』平凡社ライブラリー、2000.2
Isabella L. Bird著 高梨健吉訳『日本奥地紀行』平凡社ライブラリー、2000.2
Mircea Eliade著 中村恭子訳『世界宗教史 1 石器時代からエレウシスの密儀まで(上)』ちくま学芸文庫、2000.3
Mircea Eliade著 中村恭子訳『世界宗教史 2 石器時代からエレウシスの密儀まで(下)』ちくま学芸文庫、2000.4
内田武志・宮本常一編訳『菅江真澄遊覧記 1』平凡社ライブラリー、2000.4
9点纏める。実は今の所殆んど読んでいない。『東方見聞録』をつまみ食いした程度である。これはある意味「民族誌」的記述のハシリとして読むと極めて面白いのだけれど、それは置くとして、まあ、こういった文献は、通しで読むものというより手許に置いておくものでしょう。それはさておき、上記のように、これまで高くて一々買っていられなかった基本文献が続々と文庫化されている。繰り返しになるけれど、手許に置いておけるのは誠に嬉しい。岩波さん、平凡社さん、筑摩さん、有り難うございます。尚、現在平凡社は同社の「東洋文庫」を次々に文字通り「文庫」化している。どうせなら、全部文庫化して欲しい。良い本が多々存在するので。(2000/03/26。05/16に追加。)