Schiller著 濱川祥枝訳『ヴァレンシュタイン』岩波文庫、2003.05(1798-1799)
ドイツが生んだ劇作家シラーによる巨大な戯曲。占星術に心酔したことで有名な三十年戦争時の英雄にして暴君ヴァレンシュタイン最後の三日間を描く。娘の恋人に架空の人物を配するなどといった配慮による、その物語としての面白みもさることながら、その圧倒的に緻密な描写には恐れ入る。ただし、極めて謎の多い人物であるヴァレンシュタインの、本書に書かれていない部分については他書に当たるしかない。以上。(2004/10/11)
井上夢人著『プラスティック』講談社文庫、2004.09(1994)
一応ミステリというジャンルに属するのだろう、井上夢人のソロ・デビュー後比較的初期に書かれた傑作の文庫化である。こういう症例が本当にあるのかどうかは別として、実に良く出来た作品で、改めてこの作家の底知れぬ能力の一端を垣間見たように考えた次第。恐らく大塚英志原作の某コミック(タイトルを示すとネタバレになります…)も、本作品を意識して作られていることになるのだろう。取り敢えず、どんでん返し、張り巡らされた複線等々を含む巧みな構成を堪能していただきたい。以上。(2004/11/10)
有栖川有栖著『幽霊刑事(デカ)』講談社文庫、2003.07(2000)
1998年に行なわれた日立製作所主催の「推理イヴェント」で用いられた推理劇を元にした、この作者にしてはやや軽め(決して悪い意味ではない。)の本格ミステリ小説である。美貌の同僚との結婚を間近にして上司に銃殺された男性刑事が、幽霊となって事件の真相に到達するまでを描く結構切ない物語。この作品が、あの誰でも知っている映画を下敷きにしているのは言うまでもないことだが、本格ミステリに「幽霊」などという実在が確かでないものを登場させて良いのか、などという疑問は野暮でしかない。例えば、そもそも名探偵なんていう現実には存在していないはずのものが存在する仮想世界のなかで起きた事件についての合理的解決を描くのが所謂名探偵物の本格ミステリなわけで、私見では別段それが幽霊であっても良いことになるのである。要するに、山口雅也的テイスト(どちらかというとこっちの方がマニアックかも知れないが…)を理解出来る方には問題なく入り込める作品だと思う。以上。(2004/11/16)