Lasse Hallström監督作品 Chocolat
ラッセ・ハルストレム(Lasse Hallström)監督による、The Cider House Rulesに続くアンチ・カトリシズム映画である。

時は1959年頃、舞台となるのは、断食を含む宗教上の厳格な慣習・規律が存在するフランスのとある田舎町(なぜか英語が話されているけれど、目をつぶろう。これを言っていると切りがない。)。ここに流れ着いた流浪のチョコレート職人・Vianne Rocher(Juliette Binoche)が、共同体内において異端視されている人々や、同じく流浪の船上生活者・Roux(Johnny Depp)などと共同しつつ、その「チョコレート・セラピー」とでも言うべき職能によって人々の心を開き、共同体を活性化させるに至るまでを描く。

本作品の元となっているのは明らかに『バベットの晩餐会』(原題は不明。)という映画で、その基本的な図式は「おいしいものが人々の心を開く」というもの。「物真似ではないか、詐欺だ。」とさえ思うのだが、作品としては確かに良く出来ているし、世の中に元ネタの存在しないものは最早ほとんどなくなりつつある、あるいはそもそもないのだから、許そうと思う。大事なのはむしろ、作品として優れているかどうかなのであって、その条件は十二分に満たしていることは間違いない。

面白いのは二人の外部から共同体に侵入した異人と、共同体内に元からいた異人が、一連の事件を通じて共同体の活性化に寄与する、という文化人類学者の山口昌男的図式が顕著なことで、山口の言う「異人の持つ共同体活性作用」がいかなるものか、を理解する上での格好の材料となっていること。興味のある方は山口の一連の論考(『文化の詩学』、『知の遠近法』等。いずれも岩波書店刊。)をお読みになられると良いと思う。

前作The Cider House Rulesでは人工中絶に反対する厳格なカトリシズムに対する露骨な批判がなされていたことは既に述べた通りである。今回はそれに比べると痛烈さは少ないとは言え、因習と化しつつ、人々の生活を拘束し、ある種の窒息状態におく、舞台となっている田舎町における旧弊的カトリシズムに対して、「人はチョコレートのみによって生きることを知る」とでも言うようなメッセージを放つことで、やはりカトリシズムに対するこの監督の対決姿勢が鮮明に打ち出されているように思う。私自身はカトリシズムや、あるいはまたある社会における因習や慣習を批判する立場を取る積もりはないのだが、同監督による、政治的立場の明瞭かつ勇気ある提示には、いたく感銘を受けた次第である。

ついでだけれど、冒頭で出演者としてLeslie Caronの名前がクレジットされているのに驚かされた。特に説明を要するとは思えないけれど、往年の大スターであるこの人の出演作品その他については、検索サイトでお調べ下さい。以上、蛇足ながら。(2001/05/13)