横山秀夫著『クライマーズ・ハイ』文藝春秋、2003.08
『半落ち』(2002)により一躍有名となった作家・横山秀夫による、『別冊文藝春秋』に連載されていた長編小説である。警察小説の書き手として一定の地位を築いた著者が書いた、「初の本格長編小説」、となる。
それは忘れもしない1985年8月12日のこと。群馬県の地方紙・北関東新聞社の記者・悠木和雅は、販売部の安西耿一郎とともに、県内最大の難関である谷川岳衝立岩登攀を決行する予定だった。しかし、出発の準備中、「ジャンボが消えた」との連絡が入る。
悠木は編集局長から、事故関連の紙面編集を担う全権デスクの任に就くよう命ぜられる。世界最大の航空機事故を前に、悠木は次々に重大かつ繊細な決断を迫られることになるのだが…、という物語。
見事な作品だと思う。基本的には、組織、というものが大テーマに置かれていて、その中での悠木や、その他の登場人物たちの悪戦苦闘ぶりが、何とも熱い筆致で描かれる。サブ・テーマは、家族、であり、物語に厚みと深みを与えている、と思う。
そして何よりも重要なのは、本書自体がある意味事件当事者だった元上毛新聞記者の横山秀夫による、事故についての約17年をかけての総括、になっていることである。命、について、そしてまた報道とはなにか、ということについて、非常に深い洞察を含む、長く古典として読まれることになるであろう名作、と申し上げておきたい。(2003/12/17)