Mark Plotkin著 屋代通子訳『シャーマンの弟子になった民族植物学者の話』築地書館、1999.9
中学生・高校生の夏休みの課題図書などに最適な好著ではないかと思う。まあ、幻覚性の植物エキスを吸引して、なんて話も出てくるけれど、そういう行為の危険性と、ある種れっきとした目的のある薬物使用の事例を示す、という点で教育的なものなのだから、かえって有用なのかも知れないとも思う。勿論本書の本題はそういうところにあるのではなくて、南米のネイティヴ達が所有する植物に関する知識及び南米に生息する植物達が今日さらされている危機的状況を描きつつ、同時にまた、そうした知識や植物の有効性を訴える、というものである。実際、西洋医学で使われている薬品も、そういう古くから様々な社会で用いられていた薬草から抽出されたりしたものが大半なのである。漢方薬のように文献が残っていて、常に更新されているのだったら良いのだけれど、無文字社会の知識は口頭伝承なのだから、伝承者がいなくなれば失われてしまう。というわけで、そうしたものを文字化して後世に伝える、という作業を研究者−現地の知識人の共同という形で行っていくことは本当に大事な事ではないかと思う。当然の事ながら、その際にそうした知識を頂いた見返りは現地の人々に還元されるべきだと思うのだけれど、この著者の加わっているプロジェクトではそういう事も考慮されているようで、人類もまだまだ捨てたものではないと、つくづく思うのであった。最後に、やや気になったのは個人名のカタカナ表記がかなりいい加減ではないか、という点、及び文献注がカットされている点、そしておびただしい量の植物の図版が示されていない点、等々である。尚、村上春樹著『ノルウェイの森』を意識し過ぎの装幀は、お茶目で宜しいかとも思った次第。以上。(2000/06/30)