村上龍著『希望の国のエクソダス』文芸春秋、2000.7
評判の良い本なのだけれど、正直言って物足りなかった。私見するところ、本書は、同氏のこれ迄の所の最高傑作だろう『愛と幻想のファシズム』(集英社、1987)を、物凄く甘口にしたものに過ぎない。プロット自体は変わらないしね。素材も変わらないか。要は、〈パキスタンで戦闘行為に従事する「日本人」少年の「日本には何もない」発言を期に、中学生を中心に集団登校拒否現象が発生、彼等はインターネットを介して連合し、世界を相手にネット・ビジネスを開始、ついには北海道に独自の通貨、教育機関、その他を具えた自治都市=ミニ国家を建設する。」というもの。プロット自体は、このようにたった3行で要約出来てしまうし、では一体何に400頁も費やしているのかというと、それは殆ど〈無駄〉と言って良い経済絡みの記述である。『愛と幻想の云々』にしても、似たようなテーマを抱えた大江健三郎の小説群にしても、もう少しプロットに起伏があって、ディテールも必要不可欠な事に抑えられているような気がするのだが…。ディテールと言えば、本書は恰もビジネス書の如く経済絡みのネタは無駄とは言え膨大な勉強量を表象すべくしっかりと書き込んでいる。凡百のビジネス書(つまりは、『IT革命…』、『ITビジネス…』の類の駄本です。あんなのを買って読む奴の気が知れん。といって、「大川隆法」本と何ら変わらない「船井本」よりはマシ?ああ、抗議が来そう…。受けて立つよ。)よりは遙にマシ、とは言え、こんなに経済関係の書込みをしたために、更には肝心要(カナメ)のプロットが余りにも単線的なために、本書は単なるビジネス書になってしまっているのであった。(2000/11/03)