宮田登著 『民俗神道論−民間信仰のダイナミズム−』春秋社、1996.7
「民俗神道」という概念設定自体はとても有意義なもので、それはそれで追求すべきものなのだろうけれど、本書全体を通読するに、結局「民俗神道」なるものについて徹底的に検証するというよりは、これまでの「流行神」や「終末観」、あるいは「女の力」といったもの等々を題材にして著者が行ってきた、「民間信仰」論を繰り返しているに過ぎないと感じられた。本書においても、取り上げられている題材に目新しいものはない。それはともかくとして、もし「民俗神道」論をがっちりと構築する積もりだったのならば、それが「民間信仰」の中でどのような位置を持ち、各種成立宗教とどのように関係し、そもそもそれを一つのカテゴリーとして取りだしうるどのような特質、あるいは研究上のメリットがあるのか、といったことについての、民俗学的、史学的な検討をきちんと行う必要があったのではないだろうか。こういう話はたった6頁からなる「序」でほんの触り程度に触れられているに過ぎないし、これもタイトルを「民俗神道論」にすべく、編集上の都合でとってつけたような感じを抱かざるを得なかった。より深い追求を期待したい。そもそも何がいけないって、宮田氏は最近調査に行っていないのではないだろうか?それで新聞や雑誌に載った事例を題材に話を組み立てようとするために、恐らくは全国各地におもむいて実態調査をしてこそ話が可能になるのではないかと思われる「民俗神道」なるものについての認識が極めて浅薄なものになり果ててしまっているのではないかと思う。「始めに調査ありき」なのだと、つくづく感じる今日この頃である。(1999/01/14)