宮部みゆき著『蒲生邸事件』毎日新聞社、1996.10
カッパ・ノベルス版も数日前に刊行されたけれど、私は古本屋で入手。日本SF大賞受賞作とはいうけれど、そんなに凄い作品かな。小学生の頃にI.アシモフの『永遠の終わり』のようなとんでもない傑作時間テーマSFを読んでしまっていた私には物足りない。本書の基本構造を支えるロジックは、たとえ時間内を自由に行き来出来る能力をもつ者がいて、「歴史」に介入しようとしたとしても、「歴史」というものはその程度では全く揺らぐことなくそれこそオートマチックにある一定の方向に進行するものである、ということである。それはそれでいいのかも知れないけれど、現在の非線形・カオス理論からすれば、ちょっとした初期条件の変更が、現象をある状態に収束させることになったり、あるいは現象の進み具合に対してべらぼうな影響を及ぼすこともあって(例の「蝶の羽ばたきが」というやつです。)、どっちを向くのかは一概には決められない、というのが自然界の一般的な在り方らしいことを考えると、一方向に収束する「歴史」なんてものがどうも考えにくいのだけれど。自然界以上に予測がつかないのが「歴史」だと思うんだけどね。どうなんでしょう。私としては、P.K.ディックが描いていたような、そうした能力を持つものの介在等によって、世界がめくるめく変転を遂げていく、というヴィジョンの方が面白いのだけれど。ただ、「歴史」に「個人の意志」が反映されることはない、という宮部が今回提示したテーゼはなかなかにブラックでいいかも知れないな。これについては賛成です。そんなところで。(1999/01/23)