矢島文夫訳『ギルガメシュ叙事詩』ちくま学芸文庫、1998.2(1965)
現存する「書かれた」テクストに関していえば「世界最古の文学作品」とも呼び得るだろう叙事詩の原典訳の文庫化である。あらためて読むと誠に面白い。「人間」と「自然」の対立や、「永遠の生」の希求、あるいは「死の恐怖」といったモチーフが全面に出ていて、随分古くから同じようなことを考えてきたのだな、などと独りごちてしまった。なお、発掘された書板は12枚あるらしいのだけれど、訳出されているのは第11の書板までである。解説によると第12の書板はそれまでの物語とは「何の関係もない付けたし」なので省いたのだそうだが、こういう作為は余り好きではない。そもそも、一見つながりのないように見えるテクストが別の部分を読解するにあたっては以外に重要な意味を持つというようなことはないのだろうか。なお、「文庫版あとがき」によると、月本照男訳『ギルガメシュ叙事詩』(岩波書店、1996)には第12の書板の訳もつけられているとのことである。未読なのは心許ないのだが、早めにチェックしておきたいと思う。(1998/06/28)