横山秀夫著『半落ち』講談社、2002.09
先頃直木賞候補になったにも関わらずその「落ち」(というより、正しく「半落ち」なのだが。)にケチが付いて落選。とは言いながら読者その他からは圧倒的な支持を受けた「犯罪ミステリ」である。
取り敢えず、構成というか章立てが素晴らしい。誰かがやってそうでやっていなかったものだと思う。即ち、物語は現職警官がアルツハイマ病を患った妻を絞殺し自首してくるところから始まるのだが、自首するまでの空白の二日間の「謎」を巡って、全6章からなる本作はその章の順に刑事、検事、新聞記者、弁護士、裁判官、刑務官それぞれが逮捕された同警官およびその「謎」といかに対面し、更には警察・検察機構その他の組織防衛、あるいは各人の自己防衛その他の権謀術数といかに対決していくかを息をもつかせぬ筆致で描いていく。誠に面白い小説で、あっという間に読了した次第。取り敢えず、お薦めです。
まあ、問題は本作の「落ち」にあるらしく、一体どういうケチが付いたのかを予め見てしまうと読む気がなくなるので見ていないのだが(読んだあとでも見ていないのだが…。)、私自身も一つ言えることがある。妻を殺害した警官は自首するにあたってある重要な「書類」を処分したはずなのだが、自首した際に何故かそのコートに歌舞伎町で配布されている「個室ビデオ」の宣伝用ティッシュ・ペーパを忍ばせていて、これが冒頭から問題化されることになる。しかしですよ、そんなもの、捨てちゃえば良いではないですか…。というより、捨てるでしょ?
ちなみに、「落ち」の部分がヒューマニズム溢れるやや扇情的なものである点もごく個人的には気に入らないのだが、まあこれは趣味の問題なので致し方ない。こういうものが支持を受ける社会的背景は、分かっているつもり。それはそうと、この辺りのプロット、何となく、浦沢直樹の某コミックを彷彿とさせるものが…。というのは半分以上ネタばらしか。この辺でやめましょう。そんなところで。(2003/04/09)