張紫晨著『中国の巫術』学生社、1995.12(1990)
何とも奇妙な本である。「巫術」というタイトルから6,000円もするにも関わらず「シャーマニズム」や「巫俗」研究を中心的な活動としている以上は買わなきゃいかんな、と思って購入したのだけれど、どうやら中国では英語のmagic、あるいは日本語の「呪術」の事を「巫術」と呼ぶらしいのである。マリノフスキーやフレイザーが頻繁に引用されているけれど、例えば前者の著作であるMagic,Sciense and Religion and other Essaysは中国語版では『巫術科学宗教与神話』と題されている。どうも、日本及び英語圏と中国における「宗教」や「呪術」、あるいは「巫」や「シャーマニズム」のような概念は随分と隔たりがあるのだな、などとやや愕然としてしまった次第。韓国における「シャーマニズム」あるいは「巫俗」研究などを読んでいても余り抵抗を感じないのだが、いかんせんmagicを「呪術」と訳してきた日本の宗教研究を吸収してきた一人として、本書は何とも読みづらいものであったという事を述べておきたい。そもそも漢字を作り出したのは中国なのだから、彼等の概念適用にも相当な根拠がある訳である。この辺り、我々ももう一度自分の足下を見直さなければならないのかな、などと思う。それはさておき、本書は中国国内の少数民族の民間信仰やそれこそ「巫術」に関するデータ満載のなかなか啓発的な書物である。最近になって『中国少数民俗宗教』(雲南人民出版社、1985)が邦訳されたため、もはや存在価値はないのかも知れないけれど、基本的な事は網羅されているし、記述も割合にコンパクトなので(実のところ冗長だけれど。)中国の民間信仰や民俗宗教に関する入門書としてはお手頃かも知れない。著者の「巫術」に対する考え方にはついていけないところもあるのだけれど。まあ、その辺は読み飛ばしてしまえば良い訳です。そんなところで。(1998/09/22)