京極夏彦著『巷説 百物語』角川書店、1999.8

極めて完成度の高い中編7本からなる作品集。時代は江戸期。「小股潜りの又市」、「事触れの治平」、「山猫廻しのおぎん」、「考物の百介」という極めて魅力的な4人をメイン・キャラクターに据え、難事件とその解決、という明確な枠組を持つ物語を一作一作きっちりと組み立てている。お見事です。ここでも京極の妖怪観は徹底した合理主義である。柳田の言う「心意現象」というやつですね。まあ、それはともかく、まだ7作しか出来ていない『百物語』だけれど、どうせなら百本書いて欲しいところ。「京極堂」シリーズと並ぶもう一本の柱となる可能性を秘めた本シリーズが、今後も書き続けられていくことを期待したい。以下蛇足。最後に載せられた唯一の書き下ろし作品「帷子辻(かたびらがつじ)」は『嗤う伊右衛門』を髣髴とさせるものであった。これを「屍体愛好=ネクロフィリア」、などとといってしまったら何の「詩」もない(「死」はあるけれど…。)。なお、同作では夢野久作の『ドグラマグラ』にも登場する『九相図』(精確なタイトルではない。)が使われて、物語に厚みを加えていることを付記しておこう。京極の戯作者としてのルーツが何となく垣間見えるのである。(1999/10/28)