赤坂憲雄著『漂泊の精神史−柳田国男の発生−』小学館ライブラリー、1997.10(1994)
『山の精神史』(小学館ライブラリー、1996.10(1991))に続く『柳田國男の発生』シリーズの第2弾の文庫化である。赤坂は本書において、本シリーズにおける基本方針である「柳田国男をその可能性の中心において読む」という立場から、本作においては柳田の初期の論考において盛んに論じられていた「巫女」「毛坊主」「ヒジリ」「木地師」「被差別部落民」といった「漂泊民」が、「常民」という語がイエイデオロギーを持つ稲作農耕定住民に限定されていくと同時に形成された「民俗学」の成立期である昭和初期を境目として、ほとんど論じられないか、むしろ論じることを避けるべき対象と化していった過程を、柳田の論考の精読によって描き出しつつ、その初期の論考が持っていたもう一つの、あるいは別の「民俗学」の可能性を探り当てようと試みている。きわめて啓発的な書物であり、続刊『海の精神史』及び最終刊『常民の精神史』の刊行を心待ちにする次第である。考えてみると私が「巫女」や「修験者」や「山の神」、あるいは「祖先祭祀」を問題にしてきた/いるのも、多かれ少なかれ後期「柳田國男」とそれに引きずられた「日本民俗学」に対する反発心からなのであった。本書において再度開かれた「もう一つの、あるいは別の民俗学」の可能性について、私もまた追求せねばならないのだと心を新たにする必要に駆られる。第八章「オシラ遊び」の終わりに提示された「北へ/北からの掘り起こし作業」(p.353)の一端を担うべく、鋭意努力する所存である。御期待のほど。(1998/09/07)