池田光穂著『実践の医療人類学 中央アメリカ・ヘルスケアシステムにおける医療の地政学的展開』世界思想社、2001.03
約400ページに及ぶこの大著は、日本における医療人類学、ひいてはそれを含む応用人類学が、今後決して無視することのできない一種の里程標的文献とも言い得るもの。
本書では、ホンジュラスにおける単なる「調査」ではなく、現地の医療システムに「介入」する、という形でまさしく「フィールド・ワーク」と呼び得る行為実践を敢行した人類学者・池田光穂氏が、その行為実践を通じて思考した事柄を記述していく。緻密な民族誌的データを示しつつ、現地における、そして現在の世界における医療システム、ひいては医療人類学という立場・実践そのものが持つ問題点を描き出し、「何が問題で、それを解決するには何をすれば良いのか?」ということに関し極めて重大な示唆を行なっている。
この本を通読することで、地元民、あるいは行政側、または「中立的」な、といったような形で、いずれにせよ何らかの立場に立たざるを得ない、あるいは立っていると、特に調査対象である現地人から見なされてしまう人類学者という立場が持つ難しさについて、研究者を含む全ての読者は認識を深くすることになるだろう。
間違いなく今後考えていくべき問題・内容を数多く示唆していることになる本書は、年を追う毎にその価値を高めていくはずである、ということを述べて終わりにする。(2003/10/28)