神野志隆光著『古事記と日本書紀−「天皇神話」の歴史−』講談社現代新書、1999.1

まさに啓発的な書。本書の要点は、まず第一には、共に「天皇神話」である『古事記』と『日本書紀』が、実はその後「日本神話」あるいは「記紀神話」(これは本当によく使われています。)のような形で一緒くたに表現出来るものではなくて、そういう色眼鏡を外してよく読んでみれば、実はまったく別の神話体系を表象したテクストなのだ、ということ、そして第二には、それらが一緒くたにされていったこと及び相変わらずそうである背景には、律令制から近代国家成立に至る歴史的事情が重なっている、ということの二点になるだろうか。他にも論点は幾つかあるのだけれど、目に付いたのは以上二点。重ねて言うが、誠に啓発的である。本書はこれで完結した内容を持っていて、著者は「起源」については全く問題にしておらず、以下に書くことは無い物ねだりに過ぎないのだけれど、次なる問題として、そもそも何故『古事記』と『日本書紀』の記述がほとんど別のコスモロジーを胚胎しているのかを、その時代背景、それに関わった人々などを見ていくことによって、明らかに出来たとしたら、それもまた面白いのではないかと思う次第であった。(1999/07/24)