佐々木高明著『南からの日本文化(上)(下)』NHKブックス、2003.09
日本文化の源流が基本的に多元的かつ重層的なものである、という学説を提示し、その証明・論証に力を注いできた人類学者・佐々木高明(こうめい)による、上下2冊に及ぶ大著である。
第1部とも言うべき上巻は書き下ろしも多数含まれる「新・海上の道」と題されたもの。柳田國男が提唱した日本文化の「北上説」とでも言うべきものに、より厳密な科学性を持ったアプローチによって再検討を加えることで、新しい「海上の道」の存在を浮かび上がらせていく。
その根拠になっているのが佐藤洋一郎の研究などで最近注目されている所謂「熱帯ジャポニカ米」が日本本土でかなり古くから(要するに縄文時代から、ということになる。)栽培されていた、という事実、これに加えてイモ・アワを主な生産物とする畑作農耕が南西諸島経由で日本本土に伝わっているという事実であり、著者はこれらを元にして「南西諸島を経由してオーストロネシア型の稲作が北上し、それに伴いあるいはそれに先行して熱帯系のイモとアワなどを主作物とする農耕が、同じ道を北上した…」という仮説を打ち出している。
第2部と言うべき下巻は同著者が書いた過去(1970年代)の論文を集めたもので、「南東農耕の探求」と題されている。フィリピンに位置するバタン島、台湾、沖縄でのフィールド・ワークに基づいた極めて専門性の高い具体的かつ詳細なデータ満載の研究報告書群で、正直言ってこれがNHKブックスに収録されていることは驚異的な事柄とも言えるかも知れない。
一般読者及び専門領域を異にする研究者はこの巻に収録された論文の細部までを読み込む必要はないと思うのだけれど、それは兎も角として、こういう地道なデータ収集の積み重ねがあってこそ、上巻におけるようなある意味大胆な仮説の提示が出来るのだ、ということを忘れてはいけないとは思った次第である。以上。(2004/08/13)