折原一著『沈黙の教室』ハヤカワ文庫、1998.5(1994)
京都で行われた日本宗教学会に参加した帰りに読んだ。日本推理作家協会賞受賞作の文庫化。群馬県の某中学校の3年A組における「いじめ」「自殺」「レイプ」その他の事件及び、彼等の卒業後20年経ってなされんとする、薬物を用いた復讐計画とその顛末を中心に描いたサスペンス・ノベルで、なかなか楽しめるものであった。ただ、昨年の神戸の少年の事件だの、今夏から頻発している薬物混入事件の中で今日までに唯一犯人が特定されたクレゾール送付事件が中学3年の少年少女によるものであったことを見るに付け、現実が小説を遙かに凌駕してしまった観は否めないのだが、それなりに今日的状況をある意味では予見していたのかも知れないな、などとつまらぬ事を考えてしまった。実はこの作品、連合赤軍の事件とオウム真理教の事件を連結しているとも読むことが出来て、言われてみれば確かに当時の中学生がオウム真理教の起こした一連の事件の主謀者に数多く含まれていたことは事実である。私個人としては二つは切り離した方がいいように思うのだけれど、全く影響がなかったとも言えまい。当時小学生であった私の脳裏にもあの事件の印象はは焼き付いているからね。惜しむらくは、この辺のことに作者が今一つ無自覚で、一連の犯罪を単なる「いじめ」とそれに対する「復讐」という物凄く単純な二元論で片付けているのはちょっと頂けない。もう少し「社会派推理小説」的な描き方も可能ではなかったかと思う。面白い題材だけに残念である。さらに言えば、特に「意外な犯人」や「意外な結末」みたいなものがあるわけでもなく、「驚くべき事実」が発覚するわけでもない後半部はやや凡庸な感じがした。そういうつもりで書いているのかも知れないけれど、余りひねりが利いていないように思う。怪談話の使い方にしても、群馬県特有のものとか、反対に様々なメディアの影響とか、そういったものを織り込むことによって、話をもう少し膨らませられたのではないかなどと思う次第であった。(1998/09/21)