田中雅一編著『女神−聖と性の人類学−』平凡社、1998.10

『宗教と社会』第6号(2000年6月刊)に書評を投稿しているので、詳しくはそちらをお読み頂くとして、ここでは簡単な紹介のみにとどめたい。本書は、1991年から1994年にかけて行われた国立民族学博物館の共同研究「女神−性と聖の比較文化論」に基づく論文集であり、学術書の体裁をとっている。よって、評論・エッセイ的な文章は収録されていない。どの論文もそれぞれが扱っている分野に関心のある研究者にとっては興味深いものだろう。問題は、これが「共同研究」の成果と呼ぶべきものであるか否かという点であって、個々の論文の扱うテーマ群が余りにも多岐にわたっており(ギリシャのアテナイから、インドの各種女神、更には中国の蚕神や日本の山姥まで、といった具合。)、恐らく何度も行われたであろう共同討議の場での議論がそれぞれに活かされているようには到底読めず、結局論文相互間の関係なり何なりは、余程注意深い読者でない限り、ないしは相互関係があるという前提で読まない限り、見えてこないように思う。ただ、逆に言えば、女神研究なるものもまだ確固たるフレームがある訳ではないのだから、今後何を問題にして行くべきかを考えていく上での里程標にはなるのではないかと思う次第である。(2000/02/15)